2016 Fiscal Year Research-status Report
魚類病原体ゲノム情報を利用した網羅的エピトープマッピング
Project/Area Number |
16K14977
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
高野 倫一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 研究員 (40533998)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エピトープマッピング / マダイイリドウイルス / 冷水病 / ファージディスプレイ |
Outline of Annual Research Achievements |
病原体の感染によって誘導された抗体が認識する成分(エピトープ)を同定できれば、組換え技術を利用した成分ワクチンの開発を効率化することができる。本研究では、効率的かつ網羅的なエピトープ同定技術の開発を目指している。具体的には、断片化した病原体ゲノムDNAをランダムに挿入したファージディスプレイライブラリーを構築する。次いで、感染耐過魚などの抗体が結合するファージクローンをライブラリー中から選抜し、挿入されている病原体由来DNA断片の塩基配列を決定する。決定した配列を、病原体のゲノム配列情報と照合し、エピトープをコードした領域を決定する(エピトープマッピング)。平成28年度は、エピトープマッピングのための材料を準備するために以下の3つの実験を行った。 実験① マダイイリドウイルスの培養上清からDNAを抽出しPCRを利用してゲノム全体を増幅した。冷水病菌は培養した菌体からゲノムDNAを抽出した。それぞれの病原体から調製したゲノムDNAを100~1500bpになるよう超音波を利用して断片化した。このゲノムDNA断片の両末端に制限酵素認識サイトを含んだアダプターを付加し、T7ファージベクター(T7 select 10-3b DNA; ノバジェン社)に任意に挿入し、ファージディスプレイライブラリーを作製した。 実験② マダイおよびアユの血清中からイムノグロブリンM (IgM)を精製し、これに対するモノクローナル抗体を常法で作製した。モノクローナル抗体は試験魚の血中抗体価を測定するために使用する。 実験③ それぞれの病原体でマダイまたはアユを攻撃したのち、感染耐過した複数の個体から血清を採取した。 ここまでの研究成果を、平成29年9月にインドネシアで開催される 10th Symposium on Diseases in Asian Aquaculture (DAA10)にて発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験①では、マダイイリドウイルスの培養上清からDNAを抽出しPCRを利用してゲノム全体を増幅した。また、培養した冷水病菌からゲノムDNAを抽出した。それぞれの病原体から調製したDNAを超音波を利用して断片化し、制限酵素のBamH I認識サイトを付加したアダプターをDNA断片の量末端に付加した。BamH Iで消化したT7ファージベクター(T7 select 10-3b DNA; ノバジェン社)にアダプターを付加したDNA断片を挿入し、ファージディスプレイライブラリーを構築した。作製したライブラリーのサイズは、マダイイリドウイルスに対するライブラリーで3.2百万クローン、冷水病菌に対するライブラリーで6.9百万クローンだった。 実験②では、マダイおよびアユのIgMに対するモノクローナル抗体を準備することができた。さらに、ペルオキシダーゼで標識するためにプロテインAビーズを利用して濃縮と精製を行った。 実験③ マダイイリドウイルスでマダイを攻撃し、生残した個体から血清のサンプリングを行った。一方、冷水病については、ホルマリンで不活化した原因菌を4週間間隔でアユに2回接種したのち血清を採取した。 次年度は、血清中の抗体と反応するファージクローンの選抜を行う計画であるが、そのために必要な材料を今年度中にすべて準備することができたため、おおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、次の3つの項目について実験を進める。 ①ファージディスプレイライブラリーと血清を混合したのち、作製した抗IgMモノクローナル抗体を使用して免疫沈降を行う。この作業を3回程度繰り返し、血清中に存在する抗体に反応するファージクローンを高度に濃縮する。 ②濃縮したファージを寒天平板上で大腸菌に感染させプラークを形成させる。形成したプラークをメンブレンに転写し、試験魚の血清との反応を確認することで、濃縮が成功しているかどうかを確認する。 ③プールした状態の濃縮ファージからDNAを抽出する。抽出したファージDNAから病原体由来のDNA断片をPCRによって増幅する。ここで増幅したDNA断片については、平成30年度に次世代シークエンサーを使用して塩基配列の決定を行う。決定した塩基配列を病原体ゲノム配列上にマッピングすることで、エピトープをコードした領域を網羅的に同定する。
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