2016 Fiscal Year Research-status Report
エコシステムから考える志賀毒素ファージ多様化のメカニズム
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16K15278
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小椋 義俊 九州大学, 医学研究院, 准教授 (40363585)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 腸管出血性大腸菌 / ファージ / 志賀毒素 / ゲノム / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、腸管出血性大腸菌(EHEC)の主要病原因子である志賀毒素(Stx)をコードするStxファージについて、ファージ-大腸菌-原生生物というエコシステムの観点からStxファージの進化を捉えることにより、その多様化のメカニズムを解明する。EHECが産生するStxには、Stx1、Stx2a、Stx2cが存在するが、それぞれ異なるファージがコードしている。また、Stx2aファージは、さらに少なくとも4つのサブタイプ(Stx2a_α, Stx2a_β, Stx2a_γ, Stx2a_δ)に分類される。 まず、同じ遺伝的バックグラウンド下でファージ比較を行うため、各ファージの大腸菌K-12溶原株の作成を試みた。各StxファージをもつO157菌株から、マイトマイシンCにより誘導されるファージライセートを調整し、大腸菌K-12株へ感染させた。Stx2a_α, Stx2a_β, Stx2a_γの各ファージについては、多数の溶原株が取得できた。一方、Stx1、Stx2c、Stx2a_δの各ファージについては、プラークが形成されなかったため、実験系をスケールアップし、繰り返し行ったところ、いずれも数個の溶原株を得ることができた。現在、各溶原株について、Stxファージに組換えなどの構造変化が生じていないか確認中である。 また、原生生物の感染モデル系の構築を試みた。原生生物としては、取り扱いが容易であり、凍結保存が可能な細胞性粘菌(Dictyosteluim discoideum AX2株)を用いる。NBRPの細胞性粘菌プロジェクトが実施しているトレーニングコースを受講し、基本的な培養技術を取得した。ラボ内での培養系を確立し、大腸菌との2員培養系も問題なく実施できる実験環境を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
各Stx2ファージの大腸菌K-12溶原株の作成に予想以上の時間を要した。Stx1、Stx2c、Stx2a_δの各ファージについては、宿主菌のStx産生量が低く、ファージの誘導活性もかなり低い可能性が考えられるため、ファージライセートに十分なファージが存在していなかったと考えられる。また、大腸菌K-12へ感染させた際も、形成されるプラークが非常に小さく検出できないレベルにあったと考えられる。ファージライセートの調整スケールを大幅にあげたことと、大腸菌K-12へ感染後のプレーティングの際には、培地に低濃度のマイトマイシンCを加えることで、プラーク形成能を行進させたことで、溶菌株の作成に成功した。原生生物感染系の構築については、問題なく進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
作成したStxファージのK-12溶原株について、ファージ全長(約60 kb)を5セグメントに分けたPCRスキャニングプライマーを用いて、溶原株作成の際に他のファージとの組換え等が起こっていないことを確認する。確認ができたStxファージ溶原株について、ファージ誘導効率、宿主溶菌効率、Stx 産生量の測定を行う。また、構築した原生生物共培養系により、原生生物への抵抗性を試験する。これらの実験により得られた数値データを用いて、数理モデルを構築する。さらに、自然組換えファージのスクリーミングを行い、これらの組換えファージについても、同様の実験データを取得する。構築した数値モデルを用いて、遺伝子組換えも考慮した数十年という長期シミュレーションを行い、Stxファージ多様化機構の検証を行う。これまでの解析結果から、O157は様々な系統の菌株が存在するが、O157が保持するStxファージの種類とサブタイプは系統依存的であることが分かっている。捕食圧回避の影響、負の選択圧なども組み込んだ確率シミュレーションモデルにより、今後、どのようなStxファージをどのような組み合わせで保持するO157が優勢系統として出現してくるかを長期シミュレーションにより予想する。
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Research Products
(3 results)