2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K15407
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
秋下 雅弘 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (00261975)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
孫 輔卿 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (20625256)
矢可部 満隆 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10747265)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 気虚 / Ginsenoside Rb1 / アンドロゲン受容体 / 血管石灰化 / フレイル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は生薬人参の主成分であるGinsenoside Rb1(Rb1)の性ホルモン様作用について、フレイル関連臓器である血管および骨格筋の細胞を用いて性ホルモンと比較検討を行った。さらにRb1が性ホルモンと同様、がん細胞の増殖を促進する作用があるかについても比較検討を行った。血管においては、昨年度までの研究で明らかにしたRb1の血管平滑筋細胞の石灰化に対する抑制作用がアンドロゲンによる抑制作用と類似した機序によるものであるかを検討した。その結果、Rb1はアンドロゲン同様にアンドロゲン受容体を介して応答遺伝子であるGas6(growth-arrest specific gene 6)の転写を活性化することでアポトーシスを抑制し、石灰化を抑制することが明らかになった。これらの結果から血管細胞において、Rb1はアンドロゲン様作用をもち血管石灰化を抑制することが分かった。 筋肉細胞C2C12筋菅では、アンドロゲンが無血清条件下で上昇する筋萎縮関連因子(MuRF1, atrogin-1)の発現を濃度依存的に抑制する一方、Rb1では明らかな抑制効果が認められなかったことから、筋肉細胞に対するRb1の作用はアンドロゲンと異なる可能性が示唆された。 さらに、ヒト前立腺がん細胞株(LNCaP)においてはアンドロゲンが応答遺伝子であるPSA(prostate-specific antigen)の転写を活性化するのに対して、Rb1単独ではPSAの転写活性への影響が認められなかった。しかしながら、アンドロゲンとRb1の同時添加の条件下ではアンドロゲンによるPSAの転写活性がRb1により打ち消されることから、LNCaPにおいて、Rb1はアンドロゲン作用を抑制する働きがあることが示された。血管、骨格筋、前立せんがんの細胞で検討を行った結果からRb1には臓器別異なる作用機序があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では臓器予備能の改善に寄与する補剤生薬の作用機序を解明・分類することを目的として、今年度は生薬人参の主成分であるGinsenoside Rb1(Rb1)の性ホルモン様作用を血管、骨格筋などのフレイル関連臓器で検討した。具体的に血管老化病態である血管石灰化に対して、Rb1は性ホルモンと類似した抑制効果が認められ、その作用機序はアンドロゲン同様にアンドロゲン受容体を介した応答遺伝子Gas6の転写活性化によるアポトーシス抑制であった。しかしながら、筋肉細胞における比較検討ではRb1のアンドロゲン様作用は認められなかった。前立腺がん細胞では性ホルモンと同様、アンドロゲン受容体を介して応答遺伝子であるPSAの転写を制御するものの、アンドロゲンによるPSAの転写活性を打ち消す作用があることが明らかになった。これらの結果から、Rb1の性ホルモン様作用は臓器細胞によって異なるものであり、臓器特異性による分類ができると考えられる。今後、Rb1の抗炎症作用やエネルギー産生作用についてもフレイル関連臓器細胞を用いて検討を行うことで、臓器別作用機序を明らかにし、東洋医学の虚証改善という根本的な治療策を打ち出すことを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの結果から、Ginsenoside Rb1(Rb1)の性ホルモン様作用には臓器細胞の特異性があることが示唆されたことから、今後は様々なフレイル関連臓器の細胞を用いて、さらに生薬人参のRb1や芍薬のpaeoniflorin(P)の作用及びその機序を明らかにする予定である。血管平滑筋細胞(VSMC)、筋肉細胞系細胞株(C2C12)、ヒト骨芽細胞様腫瘍細胞株(SaOS-2)、神経系細胞株(PC12)、免疫系細胞(マクロファージ:RAW246.7)を用いて性ホルモン作用のみならず、抗炎症作用やエネルギー産生作用をそれぞれ検討し、各臓器細胞での作用機序と特異性を分類することを目指す。具体的に抗炎症作用については、lipopolysaccharideやTNF61537;刺激によって誘導される炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6, IFNなど)がRb1やPにより制御できるか、また、その抑制効果の機序を検討する。エネルギー産生作用についてはATP産生能、IGF、mTOR、AMPK シグナル経路に対するRb1やPの作用を検討する。Rb1やPの様々細胞における作用機序の解明と臓器特異性を検証・分類することができればpersonalized漢方薬の開発につながることを期待できる。
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