2016 Fiscal Year Research-status Report
肺炎球菌のアルギニン代謝産物による免疫回避機構の解明
Project/Area Number |
16K15787
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山口 雅也 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (00714536)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川端 重忠 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (50273694)
中田 匡宣 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (90444497)
住友 倫子 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (50423421)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 感染症 / 細菌 / レンサ球菌 / アルギニン |
Outline of Annual Research Achievements |
病原レンサ球菌感染症において、感染局所では激しい炎症応答や化膿性病変の形成が認められる。しかし、病原レンサ球菌は宿主の免疫応答を回避し、しばしば敗血症や髄膜炎といった侵襲性の疾患を引き起こす。本研究では、一部のレンサ球菌がアルギニンを代謝してアンモニウムイオンを産生する点に着目し、細菌の産生するアンモニウムイオンが宿主の自然免疫機構に及ぼす影響の解析を試みた。 肺炎球菌、化膿レンサ球菌、B群レンサ球菌についてアルギニン添加時のアンモニア産生量を比較したところ、化膿レンサ球菌で高い産生能が認められた。ゲノム情報から、肺炎球菌のアルギニン代謝酵素に変異が存在していることが示された。そこで、化膿レンサ球菌の血清型M1T1型の株を親株としてアルギニン代謝遺伝子の欠失株および復帰変異株を作製した。得られた菌株について、THY培地中での増殖速度に差は認められなかった。一方、36時間まで培養したとき、野生株および復帰変異株は培地中のpHが酸性に傾いた後にアルカリ性に変化した。しかし、アルギニン代謝遺伝子欠失株は培地中のpHが酸性のままであった。また、アンモニア産生量を比較したところ、アルギニン代謝遺伝子欠失株で菌体と培養上清ともに有意な低下が認められた。ヒト末梢血と各菌株と混和し、37℃で培養した後の菌数の変化を比較したところ、野生株、アルギニン代謝遺伝子欠失株、復帰変異株の間で有意な差は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度は、病原レンサ球菌についてアンモニア産生能を比較し、高いアンモニア産生能を持つ侵襲性疾患由来の化膿レンサ球菌を選出した。選出した菌株について、アルギニン代謝遺伝子欠失株と復帰変異株を作製し、欠失株においてアンモニア産生量が著しく低下すること、復帰変異株で野生株と同等までアンモニア産生能が回復することを確認した。一方で、ヒト末梢血中における生存能に差は認められなかった。これらの結果が得られたことから、研究は概ね順調に進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
アンモニウムイオンの産生が細胞内生存に寄与するかを調べるため、野生株、遺伝子欠失株、相補株について、オートファジー実験で一般に使われる上皮細胞であるHeLa細胞ならびに肺胞上皮由来細胞であるA549細胞を用いて細胞内生存能を比較する。差が認められた場合、ウェスタンブロットによるオートファジーマーカーであるLC3-II/LC3-I比の比較と、オートファゴソームと菌体の観察を行う。 in vivoでアンモニア産生能が果たす役割を調べるため、各菌株を、マウスに静脈内感染させる。感染後14日間のマウスの生存率を比較することで、病原性の差を評価する。さらに、感染24時間後に採血を行い、血中の菌数の比較と血清中のサイトカイン量を比較する。 また、化膿レンサ球菌は皮膚感染症を引き起こすことから、マウスの皮内感染モデルを用いて、感染後5日間の潰瘍部位の面積の推移を比較する。 アンモニウムイオンによる免疫機構の阻害が証明された場合には、全く新たな免疫回避機構として、感染免疫学に大きなインパクトを与えるものであると考える。また、アンモニウムイオンの産生能と病態が関連する場合は、アルギニン代謝能に関わる菌の遺伝子群が感染後の重症度を予測するマーカーに成り得ると考えられる。
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Causes of Carryover |
計画初年度において、予定していた一部の実験計画を翌年度に行うこととしたため、検出用の抗体やサイトカイン測定ELISAなどのための費用分の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
生じた次年度使用額は、当初の全体の研究計画に基づいて、初年度に遂行できなかった計画のために、物品費もしくは解析委託費として用いる。
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Research Products
(21 results)