2017 Fiscal Year Research-status Report
地域的公共圏の意義についての思想的探求――合意形成の可能性を軸に
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16K16235
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
澤 佳成 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (70610632)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 合意形成 / 地域的公共圏の創造 / 自由民主主義 / ガバナンス / 公害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまで合意形成が困難とされてきた原子力関連施設を有する地域に焦点をあて、賛成・反対の対立を越えた合意形成をなしうる公共圏の形成が可能かどうかについて探求することである。平成29年度は、以下の通り研究の成果を公表した。 (1)学会誌におけるセッション企画の実施報告:共生社会システム学会第10回大会(2016年10月2日(日)開催)のセッション企画において、研究協力者とともに実施したミニシンポジウム「地域的な議論の場の創造に向けて――青森県下北地域の調査から考える」の実施報告文を執筆し、同学会学会誌『共生社会システム研究』第11号において発表した。 (2)研究成果中間報告集の刊行:平成29年度末は4年にわたる本研究の中間となるため、前半の研究成果をまとめた研究成果中間報告集を刊行した(2018年3月27日刊)。 (3)論文の発表:環境思想・教育研究会第3回研究大会(2016年11月26日開催)のシンポジウム「原発安全神話と科学技術の問い直し~原発避難の現実から考える~」での指定報告「なぜ『変わらない』ようにみえるのか?~原子力関連施設立地地域の調査からみえてきたこと」をベースに執筆した論文「原子力関連施設の立地地域における合意形成の可能性の探求」を、同研究会の年誌『環境思想・教育研究』第10号において発表した。また、(2)の研究成果中間報告集のなかで、書き下ろしの論文「一人ひとりの声が生かされる社会へ――福島・浜岡・大間での調査から考えた視点」を発表した。 以上の研究から、地域のなかで住民自身が語らいながら未来の方向性を探っていく場を構築するにはどのような視点が必要かという点について、思想的に探究することができた。また、論考の発表や研究成果中間報告論集の刊行を通して、研究の成果をひろく社会に発信することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原子力関連施設が各所に立地している青森県下北半島を調査地とし、地域の方がた自身が町の未来を語り合う地域的な合意形成の場をつくっていくには、どのような理念やしくみが必要になるかという点について探る本研究は、地域間の比較研究、地域の文化・歴史の研究、調査内容から明らかになったことと理論とをつなぐ応用哲学的研究との3つの観点から研究計画を立てている。以上をふまえ、平成29年度は、以下の通りの進捗を得た。 (1)ヒアリング調査:応募時の研究の方法に、下北半島の現状との比較対象地域として、原子力発電所の立地計画があったけれども、住民投票を行い、建設を拒否した地域である新潟県旧巻町をあげた。平成29年度は、この新潟県旧巻町でのヒアリング調査を開始することができた。その結果、原子力関連施設が建設されなかった背景にある、地域での合意形成のあり方について知ることができ、研究後半での探求に向けた大きな示唆を得ることができた。また、本研究を進めるにあたり避けることのできない福島県(福島市・二本松市・喜多方市)での未来を見据えた取り組みについても、地域の方がたからお話を伺い、大きな示唆を得ることができた。 (2)資料収集および文献研究:調査にご協力くださった方がたから、住民の方がたの合意形成にかんする資料、地域の歴史に関する資料など、貴重な資料を頂くことができた。とくに、新潟県旧巻町で原発立地の是非が議論されていた時期の、賛成・反対双方の側の発行した資料を発掘できたのは大きな成果であった。加えて、民主主義論、ガバナンス論、合意形成論、公害のメカニズムに関する文献、地域での議論に使われた資料が収録された文献等を収集し、研究を進めてきた。 (3)研究成果中間報告集の刊行:応募時の研究の方法でも記した研究成果中間報告集を編集・刊行し、本研究を社会的に発信することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究3年目となる平成30年度は、当初の研究計画どおり発刊することのできた研究成果中間報告集での考察や仮説をふまえつつ、地域的な公共圏を築いていくにはどういう思想的前提が必要になるかという本研究の課題についてのさらなる探求を進めるため、以下のとおり4つの方策をたてて研究を進めていく。 (1)ヒアリング調査の充実:昨年、本項目で課題に挙げた行政関係者へのヒアリングについて、新潟県旧巻町では実施することができたが、他地域ではまだ開始することができていない。そこで、引き続きその実現に向けて努力する。また、これまで以上に、より多くの方の考え方を拝聴するよう努力し、原子力関連施設について、賛成・反対どちらの立場であっても「地域愛」があり、「生活世界」を守るという点で共通の基盤があるのではないかという本研究の仮説を裏付けていけるよう努める。 (2)資料の収集:原子力関連施設の立地地域によっては、計画が明るみになってから学習活動が展開された歴史を持っている。それゆえ、学習活動に使用された資料の収集に努めてきたが、数十年前に行われた実践であるため、なかなか成果が上がっていない。そこで、今年度は、地域の方がたに広く協力を仰ぎながら、そうした資料の収集を目指す。そして、得られた資料の分析を進められるよう努力する。 (3)研究報告・シンポジウム等の実施:本研究での仮説をもとに考察した研究の成果を、学会・研究会等での研究報告やシンポジウム等の機会において発表し、広く批評を頂くことにより、より精度を高めていけるよう努力する。 (4)研究成果をまとめた論文の公表:これまで進めてきた研究成果をひろく公表するため、学会誌や著書における研究成果の発表を目指す。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、実績報告の欄でも記した通り、研究成果中間報告集の冊子を作成した。その年度末の刊行に向けて、研究費の使用総額が予算をうわまらないよう、慎重に執行を進めてきた。その結果、最終的に、18952円の残高が発生した。平成30年度は、この残高の分だけ予算が増えるが、それを、平成29年度末から新たに調査を開始した巻町でのヒアリング調査と資料取集を充実させていくための費用(物品費・旅費)に充てたい。
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