2016 Fiscal Year Research-status Report
発災後の避難所生活における栄養管理に関する研究―東日本大震災の食事画像分析から-
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16K16283
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
廣内 智子 高知県立大学, 健康栄養学部, 講師 (70565853)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 食事画像分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
今後発生が想定されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震では,被災地域の広域化と被災者の増大により,外部支援が遅れ,避難所生活が長期化することが予測される。避難所生活を支える食支援を円滑に実施するためにも,発災直後のライフラインが途絶えた混乱期から閉鎖する安定期まで,日々変化する環境下での避難所の食料供給の実態を明らかにし,食に関する様々な問題を段階に応じて経時的に分析する必要がある。そこで,簡便かつ広範囲に,発災直後から長期的に食事状況を把握する方法として,被災者の食事画像の分析を行った。 平成28年度は,東日本大震災で特に被害の大きかった宮城県,岩手県,福島県の東北3県を対象地域とし,2011年3月11日から2012年3月30日に撮影された,被災者の食事画像の収集を行った。画像収集方法は,調査期間中に発売された週刊誌、新聞、写真集及び被災地に住む写真家などから,震災直後から被災者の食事に関する画像を収集した。収集した食事画像数は3743枚であった。 収集した画像データををもとに栄養価の算出を行った。算出項目は,エネルギー,エネルギー産生栄養素,必須ビタミン13種類,必須ミネラル13種類とした。基準値は,厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2015年版)」を参考とし,対象年齢は男女18~69歳の推定平均必要量,目安量,耐容上限量とした。 発災後に供給量が基準値に達した時期は,エネルギーは40日目,たんぱく質は90日目,脂質と炭水化物は30日目であった。必須ビタミン13種類のうち、発災後に最も早く基準値に達したのはビタミンB12で発災後31日目であった。必須ミネラル13種類のうち、発災後に最も早く基準値に達したのはナトリウムで発災後24時間以内であった。発災後,エネルギー産生栄養素及び栄養素の過不足が長期間認められた。これまでの研究成果は,第36回食事療法学会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,東日本大震災で特に被害の大きかった宮城県,岩手県,福島県の東北3県を対象地域とし,2011年3月11日から2012年3月30日に撮影された,被災者の食事画像の収集を行った。画像収集方法は,調査期間中に発売された週刊誌、新聞、写真集及び被災地に住む写真家などから,震災直後から被災者の食事に関する画像を収集した。週刊誌や写真集においては,国立国会図書館や大宅壮一文庫をはじめ,全国各地の図書・雑誌を所蔵する専門図書館にて収集を行った。また,本調査で収集した画像データの取り扱いに関しては、各メディアに対し、本調査の趣旨及び目的、利益相反がない旨等の説明を行った上、メディアが所有する著作物の引用及び転載の許可を得た。収集した食事画像数は3743枚であった。内訳は、週刊誌3192 枚,写真集245 枚,写真家250枚,新聞17社(宮城県・岩手県・福島県の各新聞社及び全国紙の朝日・読売・毎日・産経・日本経済)56枚であった。また,食事画像による栄養価の算出を行う事前準備として,収集した食事画像のうち,①視覚的に食事内容を確認することが出来ない画像,②食事内容が一部しか確認できず,1食あたりの量が不明な画像,③料理の種類や提供量が不明確な画像については,栄養価計算が出来ないと判断し対象画像から除外した。 結果,算出適応画像は348枚となった。内訳は,週刊誌54枚,写真集35枚,写真家246枚,新聞13枚となった。週刊誌からの画像が最も多く収集出来たが,栄養価計算に使用できる画像は写真家による画像が最も多い結果となった。算出に関して,画像から残食やおかわり等の情報が不明であったため、摂取量ではなく供給量の算出をおこなった。食材料の重量推定には、食品のカラ―写真や重量が記載されている参考資料を活用するなどして,エネルギー及び各栄養素の供給量が基準値に達した時期を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,得られた分析結果をもとに,発災後の避難所生活において,食環境の変化及び供給量の過不足などから見た栄養管理の指標を提言する。 大規模災害発生時には,多くの被災者が避難所生活を余儀なくされる。発災から数日後,支援物資の食料が増加し,量的には十分な食事を提供していたとしても,その食事から必要量のエネルギー産生栄養素を供給できていなければ「主要栄養素欠乏」,ビタミンやミネラルが不足していれば「微量栄養素欠乏」が引き起こされるリスクが高くなる。つまり,食料供給が不適切であると,身体は感染症を起こしやすくなり,食欲減退や吐き気を生じ,摂取量を減少させ,健康状態を容易に崩してしまう。このことからも,栄養素の過不足に応じて迅速に栄養管理をすすめることが必要である。避難所生活における栄養管理の留意点として,エネルギーや特定の栄養素の過不足による体調不良など,発生する可能性のある様々な問題に対し,食料の摂取方法はもちろんのこと,被災者の栄養状態を出来るだけ健常時に近づける必要がある。そのためには,備蓄食品や支援物資の状況を考慮しながら,目標とする栄養量を目安に供給する栄養素の過不足を調整し,栄養バランスのとれた食事が提供できるようにしなければならない。実際に大規模災害が発生した際,栄養・食生活支援に関わる者は,互いに連携し,情報の収集,地域の状況把握に努め,被災者の食料の確保,食事に配慮が必要な人等への栄養管理を初動期から迅速かつ的確に実施し,継続的な栄養管理を行う必要がある。今後は,得られた分析結果を基に,災害発生後から避難所が閉鎖するまで,災害時に想定される食環境と行うべき栄養管理をフェーズごとに整理する。次に,災害時に供給すると栄養管理に効果的な食品例,及び食料供給の過不足を回避するための食料供給の一例を示し,栄養管理の指標を提言する。
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Causes of Carryover |
家庭の事情により,研究環境が整っておらず,積極的な学会発表等が出来なかったことが要因として推測される。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は研究環境を整備し,学会発表や論文発表へ活用する。
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Research Products
(1 results)