2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半のフランス前衛美術におけるレアリスムの問題とふたつの世界大戦
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16K16727
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松井 裕美 名古屋大学, 文学研究科, 特任講師 (40774500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | キュビスム / シュルレアリスム / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではまず、キュビスムの彫刻家R.Duchamp-Villonが科学的な知識を用いながらどのように有機的な統一体としての新たな身体像を模索していたのかを明らかにした。この点について筑波大学で行われた美術史全国大会で発表し、同学会誌『美術史』に論文として出版した。 次に、第一次世界大戦とキュビスムの問題を分析した。なかでも人間の肉体と土とが混ざり合う情景が、キュビスムの画家たちやその影響を色濃く受けた芸術家において、幾何学的な言語で表現され、それがやがては機械化された肉体表現へと繋がっていくことに着目した。こうした傾向を戦前のキュビスムと比べてみた場合に、前者においては対象を幾何学化しながら自然や都市と人間とが融和する情景を描く傾向があったのに対し、後者の場合には外部世界に脅かされる人間像が登場する点に問題意識の違いが認められる。第一次世界大戦を契機に認められるようになるそうした動向が、やがてはダダやシュルレアリスムの「現実性」に対する新たな態度を導き出すことを仮説として提示した。こうした成果をふまえたうえで、11月に国際シンポジウム「20世紀戦争のイメージーキュビスムからシュルレアリスムより」を開催することで、戦争のイメージに関連する問題系を、文学・美術史分野の研究者とともに浮き彫りにした。このシンポジウムでは、ニューヨーク市立大学名誉教授M. Ann-Cawsを基調講演者として招聘したほか、国内外より計8人の研究者を迎え、可視性と不可視性、集合性と個別性などについて論じた。さらにパリ・ロンドンでの調査を通し、戦争文学と美術の関係も新たな課題として浮上した。 最後に、歴史観と共同体の関係が戦争のイメージと結ぶ課題にとりくむにあたり、12月にポワチエ大学教授C.Barbillonを招聘し、フランス美術史の形成および前衛的な古典主義の2点に焦点をあてた講演会を依頼した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、調査地や海外研究者招聘、研究会の開催も含め、研究実施計画に即したかたちで進め、あらかじめ立てた作業仮説に即した調査とその検討を順調に進めることができた。 当初の計画以上に研究が進展した理由としては、学際的な研究活動を通して、自らの問題を多角的に分析する機会を多く得ることができたからだ。本年度は、学問の分野を超えた意見交流の機会を積極的に設け、国内外の研究者とも研究打ち合わせを重ねた結果、文学においても同様の問題が存在することがより明確となった。雑誌Textimage掲載の仏語論文はそのひとつの成果である。ロンドンではウェストミンスター大学教授デブラ・ケリーと研究打ち合わせをおこない、戦中の文学動向と美術の関係に関する意見交換を行った。ケリー教授は研究会「War and Culture Studies」の運営委員の一人であり、そうした経験から指導をいただいた。さらに、心理学分野、科学史分野の研究者との対話を通して、本研究の課題としていた、科学が芸術にもたらす影響関係だけでなく、イメージそのものが科学に喚起する問題もまた、今後の課題として導き出した。そうしたことは、今年度の業績の中でも、共著Modelisations et sciences humainesの出版や、金山弥平主催のシンポジウム「人間と記憶」(1月)での発表に反映されている。今年度以降も、本年度の研究活動を通して培った知見および人脈を通して、他分野との対話の中で研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29度は、戦争のイメージに関して行った昨年度のテーマをフランス語および英語で出版することを試みる。また、前衛芸術における古典主義の問題について、より一次資料に即した研究を行うために、フランスおよびロンドンのアーカイヴ調査を進める。秋にはアメリカ合衆国を訪れ、ニューヨークを中心に資料を集める。また、計画通りキングス・カレッジ教授D.Cottingtonを招聘し、研究会を執り行う。さらに、身体の機械化のイメージに関する意見交換をはかるために、美術理論家G.Zapperiを招聘し、美術史と映画史の枠組みを超えた研究会を執り行う。G.Zapperiの招聘は当初予定していなかったが、本研究の進展の過程で、キュビスムにおける身体の機械化と解剖学化の問題をダダや未来派などの文脈も踏まえた上で、映画などの様々な視覚芸術との比較を通して検討する可能性が生じたため、開催を決定した。Zapperi招聘の目的は、そうした課題を、フェミニズム論的観点を交えつつ論じる手法を学ぶことである。平成30年度には、ニューヨーク市立大学教授R.Golanおよびコートールド研究所教授S.Wilsonを基調講演者として招聘し、研究会を開催する。こうした結果を共著として出版することを試みる。
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Research Products
(10 results)