2017 Fiscal Year Research-status Report
明治期の近代文体成立過程における批評家内田不知庵の翻訳言説と文学概念に関する研究
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16K16780
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Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
大貫 俊彦 千葉工業大学, 工学部, 助教 (70738426)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 内田不知庵 / 翻訳文学 / ディケンズ / 二葉亭四迷 / ドラマ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度に実施した研究成果について実施計画と照らし合わせながら報告する。平成29年度は主に平成28年度の研究成果を論文化し、さらに平成29年度の研究計画に則り二つの方針(①と②)で研究を進めた。 まず平成28年度に研究発表をした成果報告について発表時の質疑を踏まえて論文化し公表した(「「偽り」のジュール・ヴェルヌ」『文芸学研究』第21号、2018年3月)。 続いて平成29年度の研究実施計画①、②に基づいた成果報告を行う。まずは、①「不知庵の同時代の「翻訳規範」を析出し明治24年に言文一致体が翻訳文として持っていた意味とその意味を析出する。」について報告する。当初の計画では、明治24年の「酔魔」と明治29年の同作品の再訳を比較することになっていたが、①で設定した研究目的のためには、同時代の不知庵の翻訳作品を複数比較したほうが有効と判断し、当初の計画で設定した「酔魔」に加え、アーヴィングの「窮乏操觚者」、また平成30年度に取り上げる予定であったディケンズの「黒頭巾」を前倒しして研究に取り入れるという変更を行った。そして三種類の翻訳表現を比較し、言文一致で翻訳した二作を集中的に検討することで、言文一致の停滞期に、不知庵がこの翻訳形式に日本の文学表現を変革する可能性を見出していたことを明らかにした。その成果が「文芸批評家内田不知庵の初期翻訳作品にみる作品選択と文体―『罪と罰』への道程」(早稲田大学国文学会平成29年度秋季大会報告)である。 ②「不知庵の文学論の集大成である『文学一斑』の刊行後に発表されたドストエフスキー『罪と罰』の翻訳表現」に関する研究については現在進行中であり、平成29年度中に成果を報告することはできなかった。しかし計画書のなかの「「劇詩」にふさわしい文体として言文一致体が選ばれていることを論じ」るという「言語規範の意味」については、①の成果のなかに一部成果を取り込んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要でも述べたように、平成29年度の研究計画として設定した全体の目標である「「文芸批評家」内田不知庵の文学観と翻訳表現の相互関連性の検討」については、やや遅れが生じている。それは、平成29年度の研究計画の②で設定した「不知庵の文学論の集大成である『文学一斑』の刊行後に発表されたドストエフスキー『罪と罰』の翻訳表現」に関する研究に関し、先の成果報告で説明したようにまとまった成果は出せていないからである。その主な原因は計画の前半の「「劇詩」にふさわしい文体として言文一致体が選ばれていることを論じ」るという「言語規範の意味」については明らかにできたものの、その「言語規範の意味と効果」を「同時代の評価を重ね合わせて検証する」という箇所にまだ検討するための時間を要するためである。しかし、実績の概要でも記したように平成30年度に行う予定のものを一部先取りして取り組んでいるものもあり、決して大幅な遅れではない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は研究計画時に設定した二つの方針に則り、着手した。平成30年度も引き続き当初の研究計画に基づきながら研究を進めていく。全体の計画については概ね順調に進んでいるので、ここでは現在予定より遅れが生じている二点について推進方策を記す。平成29年度から取り組んでいる『罪と罰』については、すでに一部成果が出ている平成29年度の研究を踏まえ、同時代評や書籍への書入れなどを調査しながら翻訳表現と読者の受容について検討を進めていく。また最初に取り組む予定であった「ゲーテ『狐の裁判』、翻訳雑誌『欧米大家/文学の花』所収の翻訳など井上勤の下にいた頃の「翻訳規範」を検討する」についても、考察の土台となる成果は論文化した。現在は翻訳の原本となった英訳本を特定すべく、調査を進めている。原本の特定は難しいかもしれないが、当初テーマとして設定した翻訳規範や翻訳の戦略そのものに関しては、残りの研究期間で取り組める見込みである。
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Causes of Carryover |
平成29年度に取り組むことになっていた『罪と罰』の翻訳については、同時代の読者の反応や印象について資料を広範にわたって収集する必要があり、計画に遅れが生じた。そのために当初予定した研究対象やその準備に使用する費用が残った。これらを次年度使用額とする。 (使用計画)明治期の同時代評や書籍への書入れなどを調査するための資料収集や旅費に使用する。
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Research Products
(2 results)