2016 Fiscal Year Research-status Report
空白の5ヶ月をめぐって――アメリカ遠征軍短期留学制度と戦間期文学の誕生
Project/Area Number |
16K16789
|
Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
三添 篤郎 流通経済大学, 経済学部, 准教授 (40734182)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 合衆国文学 / 合衆国文化 / 高等教育史 / 第一次世界大戦 / 留学 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、アメリカ遠征軍短期留学制度の実態を解明するために、2016年8月29日から9月10日にかけて、アメリカ国立公文書館のArchive II(メリーランド州)とアメリカ議会図書館(ワシントンD.C.)においてアーカイブ調査を実施した。その結果、第一次大戦直後にアメリカ遠征軍がフランスに建造したボーヌ大学のスタッフ名簿、学生名簿、授業カリキュラム等をまとめて発掘・収集することができた。また本留学制度に協力し米兵を受け入れた英仏の諸大学が残した一次資料も、数多く入手することができた。あわせて留学制度を報道した当時の新聞・雑誌も、合衆国とフランス双方の側から可能なかぎり入手することができた。これらの在外資料調査により、これまで明らかとなっていなかった本留学制度にまつわる空白の5ヶ月間の詳細が、きわめて具体的に明るみに出せるようになってきた。 この調査をふまえつつ、初年度はフランシス・スコット・フィッツジェラルド『偉大なるギャツビー』(1925)と本留学制度との密接なつながりについて、日本アメリカ文学会東京支部にて口頭発表を行い、有意義な意見を多数得ることができた。さらに本研究を進めていく過程で、1919年前後の合衆国内における高等教育の状況を把握する必要性を実感し、高等教育史に関する資料の読み込みを行った。その成果として、従来地域主義小説として読解されてきたウィラ・キャザー『マイ・アントニーア』(1918)を、当時の高等教育の民主化運動をふまえつつ、州立大学小説として捉え直す論文を執筆することができた。研究開始当初は予想していなかったこの論考を執筆する機会を得たことにより、アメリカ遠征軍短期留学制度を、同時代の合衆国高等教育史の流れのなかに多角的に定位するための視座を獲得することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は当初の計画どおり、アメリカ議会図書館ならびにアメリカ国立公文書館におけるアーカイブ調査を夏季休暇中に10日間にわたって行った。在外調査中に、渡米前に予備調査をし見当をつけていた貴重な一次資料を、ほぼすべて入手することができた。さらに当初予期していなかった、留学制度に関わる新資料も調査過程において発掘・入手することができた。留学制度に関する公的記録を体系的に収集する基礎的な作業は順調に進んでおり、初年度の資料収集は量・質ともに問題ないものと判断できる。 研究実績の公開としては、国内での学会発表を日本アメリカ文学会東京支部にて、計画どおりに行うことができた。本発表ではフィッツジェラルド『偉大なるギャツビー』に関して、在外調査で発掘した新資料を織り交ぜながら論じることができた。あわせて本研究課題をサポートする役割も持つ、ウィラ・キャザーに関する論文も初年度中に筑波大学アメリカ文学会発行の学術誌『アメリカ文学評論』に掲載することができた。 一方、進捗の一部遅れとしてフィッツジェラルド論を初年度中に活字化できなかった点があげられる。ただし当該原稿は、口頭発表をふまえたうえですでに脱稿しており、平成29年度中に学会誌に投稿することが可能な状態となっている。そのため、2年目の研究計画を遂行するうえで大きな遅れを及ぼす要因とはなっていないと判断できる。 以上の理由から、本研究課題は全体的におおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、アメリカ遠征軍短期留学制度を、大きな歴史的枠組みに位置づける作業を引き続き進めていく。同時に、個別の作家についての事例研究をさらに推し進めていく。とりわけ「失われた世代」と本留学制度のつながりについて多角的に解明することに主眼をおく。 まずジョン・ドス・パソスについて、ヴァージニア大学所蔵の“John Dos Passos Collection”をひもとき、彼が本留学制度を活用しソルボンヌ大学に留学した際に残した記録を収集する。そして留学中に吸収した知が、「U.S.A.」三部作を筆頭とする以後の作品群にどのような影響を与えたのかを、留学制度に言及した小説『3人の兵隊』(1921)も念頭に置きながら分析する。 さらに初年度の調査を進めるなかで、「失われた世代」と強いつながりのある批評家マルカム・カウリーが、本短期留学制度から派生した「アメリカ野戦軍フランス留学奨学金」を獲得し、モンペリエ大学に1921年から23年まで留学していた事実が新たに判明した。アメリカ遠征軍短期留学制度の意義を多角的に明らかにするうえで、カウリーのフランス留学体験を分析することは早急に取り組まなければいけない課題となっている。 2年目の計画としては研究開始当初、カウリーではなくジョン・アースキンに関して在外調査を行う予定であった。しかしアースキンの資料は初年度の調査ですでに複数入手できていること、さらに渡米期間が限られていることから、アースキンに関する調査は中止ないし延期することにした。その代わりにヴァージニア大学での調査時期にあわせて、渡仏時代のカウリーに関する資料収集もアメリカ議会図書館で行い、「失われた世代」の英仏留学体験を体系的にまとめる作業に集中的に取り組んでいくこととする。 そして本調査結果を学会にて口頭発表し、その成果を論文へ結実していくことが今後の推進方策である。
|
Research Products
(2 results)