2017 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける土器出現の背景の多様性解明にむけた国際比較研究
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16K16944
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
橋詰 潤 明治大学, 研究・知財戦略機構, 特任准教授 (60593952)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 出現期土器 / 更新世末期 / 東アジア / 日本列島 / アムール川下流域 / 環境適応 / 縄文草創期 / オシポフカ文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が研究対象とする東アジアにおける更新世末期に遡る土器の出現は、人類史の中でも特徴的な人類行動を示す考古学的現象として注目されている。本研究では特に、土器出現の背景をロシア連邦アムール川下流域と日本列島の遺跡事例の分析結果から復元し、地域間比較を行う。さらに、比較結果に基づいて更新世末期の環境変動に対する人類の適応行動の多様性解明を試みることを最終的な目的としている。 こうした問題意識のもとで、報告者らは2001年より日露共同調査を進めると共に、日本国内の遺跡事例の分析を進め、本研究課題の前提となるデータを蓄積してきた。こうした研究の蓄積を土台として、本研究課題では以下の具体的到達目標を設定した。1.比較研究の前提となる考古誌(調査報告書)の整備、刊行を行う。2.日露両地域における当該期人類の環境変動への適応行動の特殊性と、地域をこえた共通性の解明を試みる。 本年度は、昨年度に引き続き基礎資料の整理と分析など上記課題の解明に向けた基礎作業を重視して研究を進めた。具体的には、①2001年に日露共同発掘を行った、アムール川下流域のゴンチャルカ1遺跡出土資料の整理・分析をハバロフスク地方郷土誌博物館で行い、研究報告書を出版した。結果として、本遺跡をこれまでに分析、研究報告書を刊行したオシノヴァヤレーチカ10遺跡、ノヴォトロイツコエ10遺跡と同様に約13,000年前に位置付けることができた。一方で、遺跡間で出土遺物の内容に異なる特徴も認められた。資料の蓄積が進んだことで、研究課題遂行の基礎となる確実な遺跡データ整備を行うことができた。②長岡市立科学博物館所蔵の新潟県小瀬ヶ沢洞窟遺跡および室谷洞窟遺跡出土資料の整理・分析を継続した。本年度は特に出土石器の器種分類結果の整理と、船底形石器と呼ばれてきた石器の再検討を中心に整理・分析を進め、成果を研究論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現状での進捗状況を確認する。 まず、アムール川下流域のゴンチャルカ1遺跡出土資料の整理・分析をハバロフスク地方郷土誌博物館で行うとともに、これまでに整理・分析を行い研究報告書刊行済みのオシノヴァヤレーチカ10遺跡と、ノヴォトロイツコエ10遺跡出土資料との比較分析を実施した。これらの成果を踏まえ、本年度中にゴンチャルカ1遺跡の研究報告書の出版を行うことができた。今回、研究報告書を刊行したゴンチャルカ1遺跡と、既報告のオシノヴァヤレーチカ10遺跡とノヴォトロイツコエ10遺跡との比較分析を行ったことで、これら3遺跡がいずれも約13,000年前に位置づけられることが明らかとなった。既報告の関連遺跡に比べ、より信頼性の高い値であり、本地域の土器出現器の年代を検討する上での基準資料を整備することができた。一方、出土遺物等についてはゴンチャルカ1遺跡と他の2遺跡の間には相違も存在しており、出土遺物の内容の多様性についても議論すべき対象が広がった。以上の本年度の研究成果によって、当地における研究の基礎資料を整備することができた。 次に日本国内では、長岡市立科学博物館所蔵の新潟県小瀬ヶ沢洞窟遺跡および室谷洞窟遺跡出土資料の整理・分析を中心に研究を進めた。本年度は同博物館での資料調査・分析を実施し、特に出土石器の器種分類の再検討と、器種組成表の整備を進めた。さらに、こうした作業と並行して、これまで「船底形石器」と分類されてきた石器の再検討を行い、器種分類の再編成を行った。また、これらの成果を研究論文として公表した。本年度中に行ったデータの整理、分析によって、結果として両遺跡の研究報告書刊行に向けた作業を進捗することができた。さらに、比較データの構築のために愛知県、奈良県、滋賀県での資料調査を実施した。 このように本課題の遂行に向けた資料の選定や、資料分析については順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって得られた成果を元にして、次年度以降もアムール川下流域および日本列島の既発掘資料の整理・分析作業を進めるとともに、得られた成果のとりまとめを行う。 これまでに得られた成果については、アムール川下流域においてはオシノヴァヤレーチカ10遺跡の2015年度発掘調査の整理作業および分析を進め、結果を研究報告書として刊行する。さらにこの報告書では、これまでの既刊報告書(オシノヴァヤレーチカ10遺跡2012年度・2013年度調査、ノヴォトロイツコエ10遺跡2003年度・2004年度調査、ゴンチャルカ1遺跡2001年度調査)の成果も踏まえた総括的な考察を行い、その内容を盛り込む。 日本国内では、小瀬ヶ沢洞窟遺跡、室谷洞窟遺跡出土資料について取得済みのデータを整理した上で、不足データ取得のための資料調査を長岡市立科学博物館で行う。両遺跡の調査成果については、研究報告書の刊行にはまだ時間がかかる可能性が高いが、得られたデータについては順次、学術論文などとして公表することで成果公表に遅れが生じないように留意する。 さらに、日露両地域での調査成果については、得られた成果に基づいて可能な限り当該期の人類行動を復元する。そして、それぞれの地域における土器出現器の年代、遺物、人類行動等の地域をこえた共通性と、固有の独自性を抽出する。これらの結果に基づいて、学術論文の執筆、学会発表などを行い、成果の公表を行う予定である。さらに、関連する研究者を交えて東アジア地域での土器出現について議論する機会を、学会セッションなどの形で企画することで、東アジアレベルでの土器出現期研究の現状での到達点と課題を明らかにする。これらの成果と問題点を整理し、今後の研究のための課題を明確にする。
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Causes of Carryover |
理由:本年度中に刊行したゴンチャルカ1遺跡の研究報告書について、当初は本研究費での刊行を予定していたが、報告者の所属機関の出版物として刊行が行われたため、次年度への繰越金が生じた。
使用計画:生じた繰越金については、次年度刊行予定の総括的な研究報告書の刊行費用に充てる。次年度の報告はこれまでの成果を踏まえた内容になるため、ページ数、刊行部数等もこれまでに刊行した報告書を上回る予定である。加えて、ロシアでの資料整理・分析を報告者だけでなく研究協力者を同行して実施することによって、作業の効率化とデータ取得効率の最大化をはかるために必要な旅費などにも充てることとする。
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Research Products
(14 results)