2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K17125
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Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
石野 卓也 金沢星稜大学, 経済学部, 准教授 (10614034)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 住宅需要 / 親子間の資産移転 / 資産蓄積 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、若年世代の住宅取得件数は低い水準に留まっている。このような若年世代の住宅需要を説明するにあたって、本研究課題では、親からの住宅サービスの提供が子供世帯に与える影響に焦点をあてる。具体的には、(1) 住宅における子供の親からの独立、(2) 住宅を通じた親から子供への所得・資産移転、(3) 住宅需要を踏まえた若年成人の消費や資産運用という3つの観点に基づいて実証分析を行う。 ここまでの研究では、(1)と(2)の観点から親の住宅を相続することが子供世帯の住宅需要に与える影響について定量分析を行った。加えて、この分析結果を踏まえたうえで、(3)の観点から住宅の相続が子供世帯の資産蓄積に与える影響についても定量分析を行った。いずれの分析についても日本家計パネル調査によるデータを用いている。 分析の結果、親の住宅を相続することが期待される子供世帯においては、平均的には9-23%ほど子供名義の持家を選択しなくなることが示されている。このことから、親の住宅を相続する予定がある場合には、自分で費用を負担して住宅を購入しなくなり、住宅に関する支出を抑制していることが考えられる。 続いて、住宅資産の蓄積について分析を行ったところ、住宅の相続経験があった世帯の方が高価な住宅に住んでいることが示唆された。このことは、親が遺産としてのこそうとしている住宅は比較的高価な住宅であることに起因していることが考えられる。 ただし、貯蓄額に対する住宅資産の割合についての分析からは、むしろ住宅の相続経験は負に有意な効果があることも表されている。つまり、住宅の相続があると住宅資産の蓄積額は増すが、それ以上の割合で貯蓄額が上昇するのである。相続を行った子供世帯においては、住宅ローンなどの支出を削減することが可能であり、貯蓄し易くなっていることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題では、住宅の相続や購入資金の贈与といった住宅を通じた親子間の所得・資産移転についてより詳細な分析を行うために、アンケート調査を行う予定である。親から子供への所得・資産移転には、親や子供達の属性や親子の介護などの行動が反映されることが先行研究では指摘されている。ゆえに、移転を正確に分析するためには、親と子供、および子供の兄弟に関して、それぞれに詳細な情報が必要になる。しかし、親子それぞれの住宅事情や、親子間の資産の移転について、住宅を含めてどのような種類の資産をもって行うのかを詳細に調査したデータは、わが国にはまだなく、新たに作成する必要がある。 この親子2世代にわたるデータを作成するにあたって、本研究課題では民間のリサーチ会社を利用し、第1世代として1000人程度の成人の子供がいる親を抽出し、その親を調査した上で、その子供たちの情報を調査する予定であった。 しかし、2019年1月から2月にかけて、現在の日本家計パネル調査の調査対象者を第1世代とし、その成人を含む子供たちを第2世代とする2世代調査を行う可能性が新たに生じている。第1世代の調査対象者に対しては、これまでに最長で15年ほど追跡調査を行っており、住宅も含めて十分な情報が調査されている。また、第1世代のサンプルサイズは5000人ほどであり、子供の数についても十分なサンプルサイズが確保されることが考えられる。 この日本家計パネル調査による2世代調査を行うことができた場合、当初予定していた2世代調査よりも分析にあたって望ましいデータが作成されることが考えられる。しかし、この調査によるデータを用いて分析を行えるのは2019年度からになるため、本研究課題の事業期間を延長する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
分析モデルの構築については、ここまでおおむね順調に研究が進んでいる。今後は、若年世代の住宅需要の動学的変化と政策インプリケーションを考慮した分析モデルを構築する。動学的変化を考慮するにあたっては、親から住宅サービスを提供されている状態から独立するまでのサバイバル分析を行う。さらに、どのような居住形態を選んで独立したかを考慮するために、選んだ居住形態で独立の種類を分ける競合リスクによるサバイバル分析を行う。また、政策インプリケーションとして、最近の税制変更の影響を分析する。近年では相続税の基礎控除額の縮小と最高税率の引き上げおよび小規模宅地の特例の適用範囲の拡大が行われた。一方、贈与税に関しては、直系尊属からの贈与税率の引き下げや相続時精算課税の適用対象者の拡大が行われた。このように相続・贈与税の課税制度は大きく変化しており、各世帯の相続・贈与の計画が変更された可能性がある。本研究課題の分析から、この制度の変化によって、どのような影響が住宅需要にあったのかを示す。 日本家計パネル調査において2世代調査を行うか否かは早々に決定する必要がある。もし調査を行わない場合には、当初の予定通りに民間の調査会社を利用して2世代調査を行う。日本家計パネル調査において2世代調査を行う場合には、具体的には以下の4つの項目について第2世代を対象に調査を行う。A) 子供世帯の所得や貯蓄額など、 B) 現在の住居についての情報(所有形態、名義あるいは市場価値など)、 C) 将来の住居について(転居計画の有無や親との同居など)、 D) 金融資産あるいは不動産の相続や贈与の予定、これらについての調査データが分析可能になり次第、上記の分析モデルを用いて定量分析を行う。
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Causes of Carryover |
予定では2017年度に200万円程度の研究費を用い、民間のリサーチ会社を利用して、親子それぞれについて詳細に調査を行った2世代調査を行う予定であった。しかし、2018年度に日本家計パネル調査による2世代調査を行う可能性が生じた。この2世代調査が実行できた場合には、当初の予定より分析に望ましいデータを作成できることが考えられる。ただし、その場合には民間のリサーチ会社を利用した場合と同様の費用がかかることが考えられ、この費用を賄う必要がある。よって、民間のリサーチ会社による2世代調査を延期した。 2018年度においては、日本家計パネル調査の第2世代調査が実現する場合には、この繰り越した研究費を用いてその費用を賄う。また、もし実現しなかった場合には、この繰り越した研究費で民間のリサーチ会社から2世代調査を行う。
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Research Products
(2 results)