2018 Fiscal Year Research-status Report
衣料産業におけるグローバルな都市間分業―持続的都市成長の原動力――
Project/Area Number |
16K17242
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
三田 知実 熊本県立大学, 総合管理学部, 准教授 (20707004)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | グローバルな都市間分業 / 衣料文化生産 / デリバティブ / REIT(不動産の証券化) / 不動産投資法人と住民の土地建物取引 / 都市細街路の持続的成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究事業は、何が都市の持続的成長を促すのか?という問いを明らかにするために、調査を行ってきた。仮説として、衣料文化生産をめぐる、デザイン、製造、流通、小売というグローバルな都市間分業が、都市の持続的成長を促すという仮説を設定し、調査研究を進めてきた。この仮説に基づき本年度は、グローバル都市・東京に再び焦点をあてた調査を行った。調査対象地は、渋谷区神宮前(旧原宿・隠田)の都市細街路。調査対象者は、大手不動産企業社員や大手商社社員で、不動産投資法人とデベロッパーが、投資行動をおこなう方法について、聞き取りを行った。 渋谷区神宮前の都市細街路では、1980年代後半から1990年代初頭にかけての土地資産バブルの盛衰により、住宅街から、衣料デザイナーやセレクトショップが入居する低層ビルが立ち並ぶ街区へと変容した。低層ビルのテナントとして入居し続けることを可能にした。こうして渋谷区神宮前の都市細街路は、住宅街から高級衣料デザインのグローバルな研究開発拠点へと変容した。その後、2005年に日本政府が不動産投資信託にかんする規制緩和を行った。三菱商事とUBSにより、不動産投資法人が設立された。この不動産投資法人が、衣料デザイン事務所とセレクトショップが集まる渋谷区神宮前の都市細街路に着眼し、街区への投資事業をおこなってきた。投資法人は、衣料デザイナー、大手セレクトショップ企業や、高級衣料貿易業を営む個人事業主ばかりでなく、地域住民もグローバル経済を牽引する投資事業に取り込まれながら、東京都渋谷区神宮前の都市細街路の経済成長を進行させた。 本年度の調査から、衣料文化生産が都市細街路の成長を促すと、グローバル経済をけん引する不動産投資法人による投資事業を誘発する。それにより、都市細街路の経済的成長が促されるという考察を導出した。衣料文化生産とグローバル経済を結びつけた学術的意義を生んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の背景として、1980年代以降、グローバル経済の進行により、工場が新興工業国へ移転し、大都市の衰退を促した。こうした背景のもと、現代の都市社会学においては、何が都市成長を促すのかという問いにたいする答えを追求してきた。 まずグローバル経済のコントロール機能の観点から、都市成長の原動力を見出してきた研究をレビューした。サッセンは、特に知識生産に基づく金融派生商品(デリバティブ)の開発が都市成長の原動力となると考えている(Sassen, 2001)。オールズは上海中心部のような大規模不動産開発における資金調達の代表的手段として、不動産の証券化をつうじた活発な投資をみいだした(Olds, 1995)。ヴェーバーの研究では、短期間でマージンを得ることができる、不動産投資信託が活発化していることに言及し、現代大都市再開発における重要な手段であると論じた(Weber, 2002)。そしてニール・スミスは、不動産の証券化という投資を強く意識した都市成長政策が、とりわけ現代社会において重要であることを認めている(Smith, 2002)。 しかしこれまでの都市社会学において、衣料文化生産をグローバル経済のと結びつけて論じたものはまだ登場していなかった。そこに着眼した本研究は、都市の持続的成長の原動力となる、衣料デザインおよび小売店が集まる細街路に再度焦点をあてた。 その結果、グローバルな衣料文化生産が、グローバル経済をけん引する、投資と強く結びついていることが分かった。これは当初想定できなかった。この知見をもとにした研究成果の公表を、2018年度2件(査読付論文1件・国際学会の報告1件)行った。 本年度は引き続き、海外の製造工場や、流通拠点の調査を行い、研究成果を公表する準備を行っている。以上の理由により、本研究は、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
グローバル都市・東京の高級街区の衣料デザインのグローバルな研究開発拠点として成長してきた都市細街路は、投資というグローバル都市特有の法人取引が衣料文化生産と結びついていることが分かった。 今後は、高級衣料のグローバルな製造業都市を事例とした、海外調査と国内調査を再度行い、比較を行う。そこでは、製造拠点とデザイン拠点の関係、下請化の問題に焦点をあてる。それにより、衣料産業のグローバルな再編のなかで、LVMH(ルイヴィトン)のような外資系高級衣料ブランド大資本が徐々にデザインから小売までの事業を外部に委託していることを実証することができる。具体的に言うと、外資系高級衣料ブランド大資本が、自社所有の土地建物の資産価値を主張しながら、不動産投資法人と複数の関連法人を立ち上げ、リートを通じた投資事業に進出する。複数の不動産投資法人間の売買取引を経て、マージンを持続的に得るというものである。 それにより本研究の結論として、衰退した都市細街路の再成長は、衣料文化生産が促す。それに加え、不動産の証券化とその売買によりマージンを得るという新しい知識生産が、都市細街路の経済的成長を促す。投資事業は、高級衣料ブランド大資本も取り入れ、主要事業が投資となっている。いっぽうで衣料デザイナーにより経営された企業、小売に対する外資系高級ブランド大資本の下請化を促す。高級衣料製造業都市にも、下請化した事業所が多くなる。以上の調査結果を、順次公表してゆく。 衣料産業のグローバルな再編は、投資と衣料文化産業が結びついたグローバル都市の持続的成長を促す。しかしグローバル都市内部で高級ブランド大資本と、下請化された衣料デザイン部門や小売部門との経済格差を生み出す。また高級衣料製造業都市とのグローバルな都市間格差を生み出す。このような衣料産業のグローバルな都市間分業を実態的に捉え、都市社会学の文脈で考察を深める。
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Causes of Carryover |
2016年度、熊本震災の発生、2017年に国際学会(香港)で発生した疾病、2018年12月にオーバーワークによる疾病(入院)により、調査を遂行することに制約が生じた。本年度は、体調に気をつけながら、研究課題を達成させたい。
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Research Products
(2 results)