2019 Fiscal Year Research-status Report
衣料産業におけるグローバルな都市間分業―持続的都市成長の原動力――
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16K17242
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
三田 知実 熊本県立大学, 総合管理学部, 准教授 (20707004)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | グローバル都市 / 衣料文化生産 / 知識生産 / 生産者サービス / 移民労働者 / 空間の記号価値 / 空間の交換価値 / デリヴァティブ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度において明らかにできたことは、衣料産業のグローバルな再編のなかで、パリを拠点とする外資系高級ブランド大資本は、世界最大のコングロマリットを形成し、デザインから小売までの全ての部門を切り離した。REIT(リート:不動産の証券化を伴う投資)不動産投資に特化している。 調査対象は、東京都渋谷区と港区にまたがる高級街区・表参道の現地調査である。富裕層のライフスタイルに不可欠な分野の企業によりLVMH(モエ・ヘネシー・ルイヴィトングループ)が結成された過程の文献調査を行ってきた。 LVMHのCEOはLouis Vuitton創業家の人物・V・アルノーである。彼は世界の大富豪2019年第一位になっている。LVMHは世界の大都市の高級街区にグループ企業ブランドの路面店を開業させる。建物のデザインやストリートの高級化をも促す。LVMHを不動産投資法人に特化し、取引を行うためのペーパーカンパニーを少なくとも2つ以上設立している。 LVMHは土地建物のデザイン(記号価値)や街区空間の記号価値を更新しつづける。それにより空間の交換価値が高まる。このときペーパーカンパニーとのあいだで売買を行い、LVMHは巨大なマージンを得る。投資から得たマージンは、アルノー氏の資産運用会社にストックされる。しかし創業家の資産運用会社からの投資以外の支出は、ほとんどない。その動機と目的がないアノミー的投資によるものである。 グローバル都市では、高級ブランド衣料大資本が不動産投資に特化し衣料デザインから小売までの部門を外部委託としている。都市空間の記号価値を更新し続けながら、空間の交換価値を高めて売買を続ける。衣料デザイナーのグローバルな純粋生産がグローバル金融と生産者サービスと密接な関係を持ち始めた。これが2019年に明らかにした調査結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の研究報告をもとに、最終研究成果として、海外学術雑誌への投稿や、国際会議での学術会議を行うことができたところに、かなり研究成果への手ごたえを感じている。しかしながら追跡調査(中国系移民が高級ブランド大資本から製造業務を受託してきた過程)をイタリア・ミラノにおいて行う予定だった。しかし、COVID-19の感染源の場所となってしまい、まだ渡航調査が叶っていない。またcity and community への投稿を行ったが、編集委員会が変わるため、査読までのプロセスに時間がかかっているとの報告を受けた。 また、フランス国内で国際経済文化学会(AECI)が実施予定であったが、国際会議は遠隔会議もしくは中止なった。そのため、最終の研究成果報告書の内容を一部変更して、制作している。そのため1年間の事業延長を申請した。
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Strategy for Future Research Activity |
結論を見出すために、本年度は、主に3つの先行研究の領域を、レビューする必要がある。 まずひとつめの先行研究は、カステル、ルフェーブルなどの空間論、空間の生産論である。これは、東京都渋谷区の高級街区にたいし、外資系高級ブランド大資本が投資を行い、ペーパーカンパニーを2社以上設置し、売買を行う。それによりマージンを得て、大資本の資産運用会社にストックされる。高級街区における衣料デザイナー、高級衣料の建物のデザイン更新、小売空間、小売スタッフのみならず、高級街区をマネージメントする地域における任意団体の行為が、高級街区の空間の記号価値を高め、それが空間の交換価値の上昇を促すという知見を、『空間の生産』(アンリ・ルフェーブル)などの理論と結びつけた考察を行う。 ふたつめは、空間の記号価値を高めることに大きく貢献している人々が、製造に関わってきたヨーロッパや日本の製造職人よりも、中国人移民により経営されている零細製造企業であることを先行研究と結びつけることである。高級ブランド大資本は、中国人の零細企業に安価な工賃により製造を委託している。このことは、1978年の中国の改革開放政策以降の温州人のヨーロッパへの北上が、ミラノにおける衣料産業における零細工場を生みだした経緯を調査した論文と、ミラノやボローニャなどの"The Third Italy"の闇の部分を明らかにした先行研究を探索しレビューする必要がある。 三つめの研究領域は、都市社会学の歴史的系譜である。1920年代に生まれたシカゴ都市社会学から、グローバル都市論をレビューしながら、高級衣料産業のグローバル都市間分業がグローバル都市の高級街区だけが成長しており、その背景にある衣料デザイン、製造、流通や小売に関わる人々と、外資系高級ブランド大資本創業家のような、世界の大富豪との驚くべき格差を生みだしたと結論づける。
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Research Products
(1 results)