2016 Fiscal Year Research-status Report
ラベル付けとテリトリー化:多様な教育環境でのアイデンティティ交渉に関する研究
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16K17410
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小林 聡子 千葉大学, 国際教養学部, 助教 (90737701)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アイデンティティ / 言語と空間 / 教育環境 / 言語学習 / 質的研究方法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,多様化する教育環境における文化的言語的少数派生徒のアイデンティティの交渉を明らかにするものである。本年度より、平成16年から関連調査を行っている米国に長期滞在する日本人(元)高校生と日系米国人生徒らに焦点を当て,学内における異なるグループを識別する際に使う「ラベル付け(labeling)」と「テリトリー化(territoriality)」を主な分析対象とし,アイデンティティの位置取りにおける言語と空間の役割の明確化を行っている。本年度前半は主に文献調査を進め、後半はロサンゼルスの公立高校に通っていた長期滞在日本人生徒らの民族アイデンティティの位置取りについて,その後の追跡・追加調査をインタビューを通して行った。その中間報告を現在海外の学術雑誌に向けて執筆中である。また、文献研究をと追跡調査をしていく中で、申請時に予定していたホノルルでの調査ではなく、政治的・地理的・経済的に周縁性を抱えるグアムにおいて生活する長期滞在日本人・日系人生徒に焦点を当てることで、よりアイデンティティの位置取りにおける言語と空間の役割が明確になってくるのではないかとの見解に至った。また、グアムを対象とした研究自体が国内外でも少なく、地域研究における本研究の貢献度も高い。平成28年度1月から3月にかけて現地との調整を行い、平成29年度4月初旬にグアムでの調査赴き、多くのデータを得ることができた。また、計画書でも述べた通り、より批判的な新しい質的研究方法の開拓を試みており、所属大学の学部生に協力してもらい、GPSやアクションカメラを用いて多角的にデータを収集・分析することで,新たな研究手法の可能性を探っており、その中間報告として所属機関の紀要に論文をまとめた。当該手法については、平成29年度の現地での調査に活かしたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね以下の通り予定通りに進めることができた。大きな軌道修正として、調査地をホノルルからグアムに研究の方向性を考えて変更した点がある。 <4月~9月>理論・方法論に関する先行研究の整理と検討・調査準備:1) アイデンティティ交渉における言語や空間の役割を論じた先行研究,言語人類学と批判的地理学における質的研究方法に関する文献の整理と検討を行った。2) 米国調査の下準備として,調査対象校への連絡,調査対象者への協力依頼,インタビュー項目の作成を行った。3) 平成16年当時から現在までの状況を知っているロサンゼルスの卒業生・教職員らにSkypeあるいは日本国内で会い,その後のアイデンティティの位置取りの変化,また進路や社会生活に高校当時の影響が見られるのか,聞き取りを実施した。 <10月~2月>データ整理と分析:1) インタビューデータを整理し、データ起こしをし始めた。2) 文字化されたものを他の資料と合わせながら,質的データのカテゴリー抽出に有効なNvivoソフトウェアにインプットし始めた。 <3月>グアム(1週間)で調査: 当初、米国のホノルルにおいて調査を進める予定であったが、文献調査を進めていく中で、今回はより政治的・地理的に周縁性を孕み、また調査がほとんど国内外でも進んでいないグアムでの調査に軌道修正をした。3月中はグアムの高校での観察と校外での観察とインタビューのための調整をした。3月の段階で、グアム大学の教員3名、グアム日本人学校の教員1名、グアム日本語教師会の教員2名と事前調整・話し合いを行い、現地での調査が潤滑に進むようにした。
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Strategy for Future Research Activity |
<4月>グアムでの調査。1) 長期滞在日本人生徒や日系人生徒、および日本語を学ぶ多様な背景を持つ生徒らが在籍している高校で観察を行い,生徒たちの日常会話と習慣化された行動データを収集する。2) 生徒ら計10名程に概念的地図等を用いて個別・集団インタビューを実施する。 また、教職員らにもインタビュー実施し、関連資料を収集する。 <5月~7月>データ整理・分析・データベース化:前年度2月~3月に収集した言語データの文字起こしを依頼し,その後分析を実施する。また,アイデンティティの交渉における言語と空間の役割に焦点を当て,先行文献と分析結果のデータベース化を始める。 <8月>前年度同様、グアムの高校で2週間の観察と校外での観察とインタビュー:1) 長期滞在日本人生徒や日系人生徒が在籍している高校で観察を行い,生徒たちの日常会話と習慣化された行動データを収集する。2) 生徒ら計10名程に概念的地図等を用いて個別・集団インタビューを実施する。 <5月~2月>中間結果の公開:中間結果を学会において発表し,国際学術雑誌に投稿する。また、専門家からの意見聴取:海外の当該分野に関わる専門家から,本研究の状況についての意見を聞き,分析する視点を得る。 <3月>ロサンゼルスの高校の卒業生・教職員・保護者に追加の聞き取り調査を1週間で実施する。なお,全ての調査が計画通り実施できない場合,平成29年度は,インタビューの人数と意見聴取の数、海外滞在日数を減らして実施する。
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Causes of Carryover |
平成28年度の3月に予定していたグアムでの調査が、現地との調整の関係で、平成29年度4月にずれ込んでしまったため、旅費の請求が次年度になっている。また、業者に発注する予定であった文字起こしを、自ら進めたため、本年度は人件費が減らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記にも記したように、すでに4月にグアムでの調査のための旅費が使われている。また、平成29年度は、8月と3月に海外調査を予定通りに実施するように現地との調整している。文字起こしについても、データが膨大になっているため次年度は業者に発注する。
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Research Products
(1 results)