2016 Fiscal Year Research-status Report
X線高分散分光によるブラックホール連星の円盤風噴出メカニズムの解明
Project/Area Number |
16K17672
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
志達 めぐみ 国立研究開発法人理化学研究所, MAXIチーム, 基礎科学特別研究員 (10755846)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | X線天文学 / ブラックホール / 降着円盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、X 線衛星「ひとみ」が姿勢系トラブルにより運用停止となり、当初期待していた観測データが得られなかった。一方、他の X 線衛星や光・赤外線望遠鏡で過去に得られたブラックホール連星のデータを用いて、円盤風の研究を進めることができた。また、そのデータ解析で必要となる、ブラックホール連星の降着円盤からの X 線放射モデルも自ら開発した。今年度の主な研究成果は次のとおりである。
ブラックホール連星 GRO J1655-40 の 2005 年の増光時に、他のブラックホール連星に見られるものとは違った観測的性質を持つ円盤風が見つかっており、その解釈をめぐる論争が 10 年にわたって続いていた。私は、GRO J1655-40 の 2005 年の増光時に得られた X 線・可視光・近赤外線同時データに、英国ダーラム大学の研究者と共同で開発した最新のブラックホール降着円盤モデルを適用することで、この天体から円盤風として大量のガスが噴き出し、光学的に厚い噴出ガスが、ブラックホール近傍からの X 線放射の大部分を遮っていることを突き止めた。これまでの研究では、円盤風として噴出するガスは光学的に薄いとされていたが、この研究結果により、その前提が覆された。この結果を、主著論文として米国の The Astrophysical Journal 誌に発表し、フランスで行われた国際会議で口頭発表を行った。また、この成果は、私が所属する理化学研究所内でも注目を集め、所内の研究成果を一般向けに解説する雑誌 "Riken Research" に、顕著な成果として取り上げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
X 線衛星「ひとみ」が打ち上げ後の姿勢異常により通信できなくなり、本研究の対象天体であるブラックホール連星を1つも観測しないまま、想定より早く運用が終了した。そのため、当初計画していた、マイクロカロリメータの高分散分光データを用いた円盤風の研究を遂行することができなかった。一方で、「ひとみ」のエネルギー分解能には劣るものの、他の X 線衛星の検出器で過去に得られた分光データを用いて円盤風の研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度と同様、ブラックホール連星のアーカイブデータを用いて、円盤風の電離吸収構造の解析を行う。さらに、MAXI を用いてブラックホール連星の光度変動を常時監視し、増光が起これば、ただちに現在運用中の X 線衛星に、円盤風の分光観測を提案する。そうして得られる新しいデータと、過去のデータを系統的に解析し、得られた噴出ガスの電離度・柱密度・速度・噴出位置の情報を、理論モデルと比較することで、円盤風の噴出メカニズムの解明を目指す。また、「ひとみ」の代替ミッション「X 線天文衛星代替機 (XARM)」の計画が進んでおり、2020 年度に予定されている打ち上げに向け、プロジェクトチームが立ち上がりつつある。XARM は、ひとみと同様の性能のマイクロカロリメータを搭載する予定であり、本研究計画にある、ブラックホール連星の円盤風の高分散分光を実施できる。この XARM プロジェクトに参加し、検出器の地上較正やブラックホール連星のサイエンス検討などに貢献したい。
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Causes of Carryover |
X 線衛星「ひとみ」が打ち上げ後まもなく運用終了となってしまったため、当初予定していた、「ひとみ」の検出器の機上較正の打ち合わせのための米国等への渡航が全てキャンセルとなった。このため、渡航費・滞在費として計上していた予算が未使用のまま残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
共同研究者である英国 Durham 大学の Chris Done 教授と、過去の観測で得られた円盤風のX線データの解析、及びその結果と理論モデルとの比較作業を行うため、2017年度の夏頃に1-2か月程度、英国に滞在することを予定している。その渡航費・滞在費に使用する予定である。
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Research Products
(17 results)