2017 Fiscal Year Research-status Report
X線高分散分光によるブラックホール連星の円盤風噴出メカニズムの解明
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16K17672
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
志達 めぐみ 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 助教 (10755846)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | X線天文学 / ブラックホール / 降着円盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、英国 Durham 大学に1ヶ月程度滞在し、同大学の Chris Done 教授と、ブラックホール X 線連星の円盤風に関する共同研究を行った。具体的には、円盤風の噴出機構として有力な説の一つである「熱駆動型円盤風モデル」の理論予測と、実際の X 線観測の結果を比較し、モデルの妥当性を調査した。今回は、Chandra 衛星によるブラックホール X 線連星 H 1743-322 の分光データを例にとり、モデルと比較した結果、熱駆動モデルから予測される鉄の吸収線構造が Chandra の観測結果と非常によく一致することがわかった。現在、この研究成果に対する論文を執筆中であり、2018 年 3 月には、日本天文学会春季年会にて口頭発表を行った。 また X 線衛星「ひとみ」で行えなかった円盤風の X 線吸収線の高分散分光観測を見据え、「ひとみ」の後継機である X-ray Astronomy Recovery Mission (XARM) の準備チームに加入した。XARM は「ひとみ」と同様の X 線マイクロカロリメータを搭載する予定で、これを用いてブラックホール X 線連星の観測を行うことで、かつてない精度で円盤風の速度や電離度等を測定でき、円盤風の駆動メカニズムの問題に最終決着をつけることができると期待される。私は XARM ミッションの科学運用チームに参加し、観測データ整約ソフトウェアの開発・試験等を担当することとなった。ここでの活動を通して、プロジェクトに技術面から貢献するとともに、打ち上げ後の実際の観測で常に正しい解析結果を得るために、検出器の特性・適切な解析手法を十分に理解しておきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「ひとみ」の運用終了により、当初予定していた、マイクロカロリメータによるブラックホール X 線連星の円盤風の高分散分光データを得ることは不可能となり、円盤風の駆動メカニズムの最終決着は、2020 年初頭に打ち上げ予定の XARM など、X 線マイクロカロリメータを搭載する衛星を用いた、将来の観測まで待たざるを得なくなった。その一方で、既存の X 線分光データと、熱駆動型円盤風の理論予測との比較を行うことで、現在の観測精度の範囲内で、同理論の妥当性を確かめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度・一昨年度と同様に、ブラックホール X 線連星のアーカイブデータを用いて、円盤風の電離吸収線の解析を行い、噴出ガスの電離度・柱密度・速度・噴出位置などの情報を取得する。また、MAXIでの監視を継続し、増光中のブラックホール X 線連星に対して Chandra、XMM-Newton、Swift などの衛星を用いた詳細観測を行うことで、新たな分光データを取得し、同様の解析を行う。そうして得られる情報と理論モデルとの比較を行い、2017年度に調査した H 1743-322 以外の天体でも、円盤風モデルの妥当性を確認する。 また、XARM 衛星に搭載されるマイクロカロリメータを用いた、将来の高分散分光観測を見据え、ブラックホール X 線連星の円盤風の観測シミュレーションを行うなどして、打ち上げ前の段階から入念なサイエンス検討を行うとともに、XARM 衛星の準備チームの一員として、技術的側面からプロジェクトに貢献する。
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Causes of Carryover |
X 線衛星「ひとみ」が運用を終了してしまったため、科研費申請時に計上していた「ひとみ」の機上較正・運用に関する打ち合わせのための米国等への渡航は全てなくなった。これにより前年度に生じた残り予算は、今年度の英国 Durham 大学への渡航費・滞在費に使用する予定であったが、別の予算を使用することとなった。その結果、今年度も残額が生じた。 2018年度は、スウェーデンで8月に行われる降着円盤の降着流・噴出流に関する国際学会に招待されており、本課題に関する口頭発表を行う予定である。次年度使用額の一部は、この学会への参加費と旅費に使用する予定である。また、1-2 ヶ月に一度関東で行われる MAXI チームの会議、「ひとみ」の後継機である XARM 衛星の準備チームの打ち合わせに参加するための旅費にも使用する予定である(2018年2月に理化学研究所から愛媛大学に移動したため、関東で行われる会議等に参加するために、当初の計画より多額の旅費が必要となった)。
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Research Products
(10 results)