2016 Fiscal Year Research-status Report
パルス中性子による鉄系超伝導体のスピンダイナミクスの研究-局在遍歴2面性の起源-
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16K17750
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
堀金 和正 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10406829)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導体 / パルス中性子 / 磁気励起 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ホールドープ系物質Ba1-xKxFe2As2の過剰ドープ領域に対応するx = 0.5(Tc=36K)およびx = 1.0(Tc=3.4K)の単結晶試料を作成し、J-PARC中性子実験装置『四季』を用いて未知であった過剰ドープ領域の磁気励起の研究を進めてきた。 x = 0.5における磁気励起スペクトルにおいては約200 meVに及ぶスピン波的な分散関係を持つ磁気励起が観測された。この磁気励起のエネルギースケールは母物質x = 0および、最適ドープ試料x = 0.33で見られたものと同程度である。一方、x = 1.0ではスピン波的励起の上限は約80 meVまで減少し、かつスピン波的励起よりも高いエネルギー領域では、ほぼ垂直な分散を持つ煙突型の励起が観測された。この煙突型磁気励起はx = 0.5においても高エネルギー側に存在しており、ホールドープにより煙突型励起が発達することが明らかになった。これまでの結果を踏まえBa1-xKxFe2As2の相図とスピン波的磁気励起のバンド幅(最大エネルギー)のホール濃度(K濃度)依存性をまとめると、バンド幅は0 < x < 0.5ではほぼ一定であるが、x > 0.5で急激に減少している。この急激な減少に伴い超伝導転移温度も減少していることから、スピン波的磁気励起を記述する実効的な磁気交換相互作用Jと超伝導転移温度Tcの間に相関があることが明らかになった。一方、x = 1において顕著にみられた高エネルギー領域における煙突型励起は、Cr等の遍歴反強磁性体で見られる磁気励起に類似している。これまで報告がなされている理論計算結果と比較すると密度汎関数理論(DFT)と動的平均場理論(DMFT)を組み合わせた方法で計算された結果と非常に良い一致を示し、鉄系超伝導体が局在性と遍歴性の両方を併せ持った性質を持つことが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的の一つである『KFe2As2で観測された局在-遍歴2面性を有する磁気励起スペクトルがホール濃度に対してどのような質的変遷で母物質BaFe2As2の磁気励起にいたるのかを解明』という点については、これまで未知領域であった過剰ドープ領域の磁気励起を新たに測定し 1. スピン波的分散は最適ドープ領域までおおむね同様の磁気励起スペクトルを有するのに対し過剰ドープ領域(x>0.5)以降から大きく変化し、スピン波的な分散が抑制される一方で煙突型の磁気励起が発達する質的変遷を明らかにすることができた点 2. 超伝導転移温度も磁気励起スペクトルが大きく変化する過剰ドープ領域で大きく変化し超伝導との関連性を示した点 3. 磁気励起のホール濃度に対する質的変遷が密度汎関数理論(DFT)と動的平均場理論(DMFT)を組み合わせた方法で計算された結果と非常に良い一致を示し、鉄系超伝導体が局在性と遍歴性の両方を併せ持った性質を持つことを示した点 から本研究課題がおおむね順調に進展していると結論付けた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はBa1-xKxFe2As2を中心として局在-遍歴2面性を有する磁気励起スペクトルがホール濃度に対する質的変遷を解明した。特に超伝導転移温度と磁気励起スペクトルに大きな相関関係があることを示した。 そこで次年度は超伝導転移温度との関連が示されているAs-Fe-As結合角を変化させた際にスピン波的な分散や煙突型の磁気励起がどのように変化するのかを明らかにするために同じく122系物質群のひとつであるCa1-xNaxFe2As2に着目してパルス中性子実験を実施していく。 単結晶試料についてはこれまで共同研究を進めている産総研李グループの協力のもと作成を行い、中性子散乱実験はJ-PARC中性子実験装置『四季』を用いて実施する予定である。計画外シャットダウンやマシンタイム不足等により早急に実験出来ない場合は、これまで共同研究により実績を積み上げてきた海外グループとの連携により、海外の中性子施設(オークリッジ国立研究所等)においてビームタイムを確保する。
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