2016 Fiscal Year Research-status Report
大江スミのイギリス留学による明治期の住居衛生論の導入と国内での展開に関する研究
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16K18222
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
須崎 文代 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (20735071)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文献調査 / 婦人衛生雑誌 / 現地調査 / ベッドフォード・カレッジ / ロンドン / パリ / 長崎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は明治期の住居衛生論の導入と展開を明らかにすることを目的として、大江スミ(旧姓・宮川寿美子)のイギリス留学を経た見識に着目し、帰国後の動向も含めて検討するものである。初年度である平成28年度は、研究実施計画の通り、大江スミがイギリス留学中に得た見識を明らかにするため、大英図書館(ロンドン)にて、下記の三点(1)スミの留学中の活動に関する情報収集に資する、ベッドフォード・カレッジおよびバタシー・ポリテクニックに関する書籍、(2)スミが参考にしたと考えられる衛生学関連の書籍、(3)(2)と同じく、家政学(住居)関連の書籍、について資料調査を行った。これらの文献の内容を確認した結果、スミが参考にした衛生学は、当時のイギリスにおいて先進的なものであったと考えられる。なお、これらの文献資料は、古書購入等によって収集を進めた。 また、明治期の日本国内での住居衛生論の動向を把握するため、まず専門書を通して明治期の衛生論に関する基本的な情報を整理し、そのうえで『婦人衛生会雑誌』(大日本私立婦人衛生会1889~1893)『婦人衛生雑誌』(1893~1926)の記事を中心として、言説等の整理を行った。 さらに、大江スミの足跡や活動を捉えるため、留学中の滞在地であるパリおよび故郷の長崎(特に、スミの父親が出入りしたグラバー邸、出生地付近等)にて、それぞれ、当時の住環境や衛生論の状況に着目して現地視察を行った。 以上の本年度に執り行った文献調査、資料収集、現地視察等は、次年度(平成29年度)以降における調査研究の遂行のための基盤として不可欠なものであり、一定程度の成果を得られたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当該テーマに関する基礎的な動向の把握を主眼としており、現在までの調査研究の進捗は概ね順調である。まず、お茶の水女子大学所蔵『外国留学生報告書並ニ関係書類 明治三十三年~大正五年』における大江スミ(宮川寿美)の報告内容をあらためて整理した。また、大英図書館での文献調査と古書収集を通してこれまでに入手し得た資料の記述内容からは、スミが同校の日本人卒業生として帰国後に活躍したことが認識されていた点や、同校の衛生学の教育プログラムなどについて明らかとなった。さらに衛生学関係の専門書からは、当時の衛生論の様子やそこで取り上げられていた配管、衛生設備などを具体的に捉えることができたが、さらに内容を精査することでスミの導入した住居衛生論に関する動向が明らかとなる見通しである。この内容は、来年度以降の学会発表や論文投稿を通して、研究成果の公表を行う予定である。 一方、本年度に予定していたSarah Teasley氏との連携やベッドフォード・カレッジへの訪問(図書館等での調査を含む)については、本年度中に遂行できなかったため、今後の課題といえる。しかしながら、スミの調査地であるパリでは、現地の専門家(Catherine Clarisse氏、Josef Kyburz氏)から、パリを含むヨーロッパでの住居衛生論に関する助言(参考文献等の情報)を得ることができ、今後のさらなる進展が見込まれる。 また、国内での明治・大正期の住宅遺構の視察については、本年度は東京・神奈川近郊のものにとどまった。住宅遺構で水回りや衛生設備のオリジナルが現存している事例は数少なく、同時期の国内での実態を把握するうえでは地方の遺構を確認することで非常に重要な情報を得ることができると考えられる。次年度は、こうした観点から、より積極的に国内事例を調査したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度中に遂行した上記の調査研究の成果をもとに、今後も概ね当初の計画通りに推進する予定である。 イギリスにおける調査研究については、さらなる文献調査のほか、Teasley氏との調査協力の体制を整え、ベッドフォード・カレッジへの訪問や大学図書館での資料収集を遂行する計画である。また、平成29年度から30年度にかけて、ベルギー、ドイツ、フランス、ニューヨーク等におけるスミの調査先(貧民救済施設や社会教育施設など)を視察し、状況を確認するとともに、現地で入手可能な文献を収集する。Kyburz氏等から得られた助言も踏まえ、具体的な検討を進めることとする。さらに、当時のイギリスにおける衛生関連の動向として、エドウィン・チャドウィック、オクタヴィア・ヒルの社会改革者によって展開された救貧やスラムクリアランスで知られる衛生改善の試みのうち、本研究では特に、上下水道、採光、換気、土地、廃物処理、その他建築的施設・ 設備など、住居衛生に関する問題に着目して関連調査を行う。 国内での住居衛生論の展開については、上記の『婦人衛生会雑誌』、『婦人衛生雑誌』における言説を中心として、具体的な動向の検証を進める予定である。衛生論のなかでも住居関連については、こうした女性向けの雑誌で扱われた傾向が認められるためである。この検証を通して、当時の通説や最先端の衛生論、開発された装置などについて整理し、スミの導入した住居衛生論を位置づけるための基礎研究とする。 上記に加えて、スミの活動を捉えるため、教員を務めていた沖縄高等師範学校および沖縄県高等女学校に関する調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本年度に予定していた調査用PCの購入は次年度以降に見送った。 また、本年度予定していたイギリスへの調査渡航2回のうち、日程的な調整が難しく、次年度に見送ることとなった。その結果、本年度残高が約36万円となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の残高は、平成29年度に繰り越し、物品費、旅費として支出する計画である。
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Research Products
(1 results)