2017 Fiscal Year Research-status Report
大江スミのイギリス留学による明治期の住居衛生論の導入と国内での展開に関する研究
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16K18222
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
須崎 文代 神奈川大学, 工学部, 助教 (20735071)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 大江(宮川)スミ / 住居 / 衛生 / イギリス / 明治 / 住宅改善 / 家政 / 近代建築史 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究2年目にあたる平成29年度は、初年度に得られた成果をもとに、当初の研究計画に従って、国内およびイギリス・フランスにおいて資料の分析と遺構調査を遂行した。 まず、国内での調査は、わが国明治期の住居衛生論を明らかにする基礎資料として、昨年整理した『婦人衛生会雑誌』、『婦人衛生雑誌』の関連記事を悉皆的に収集し、記述内容の傾向に関する分析を進めた。これについては今後も継続的に作業を行い、適宜、学会等に成果を発表する予定である。また国内の明治期の住宅遺構としては、大江スミの出生地である長崎における明治期の住宅遺構(衛生学の第一人者である長与専斎の生家、および雲仙市に現存する重要文化財・旧鍋島家ほか長崎市内の遺構)を現地調査した。 欧州については、お茶の水女子大学所蔵『外国留学生報告書並ニ関係書類 明治三十三年~大正五年』記載の活動内容をもとに、本年は留学先のイギリス国内、およびイギリスの衛生論に多大な影響を与えたと考えられるフランスでの建築計画における衛生面の取り組みの状況について調査を行った。イギリスにおいては、大英図書館における19世紀刊行の衛生専門書の文献調査、スミの留学先であるバタシー・ポリテクニックの後継機関であるサリー大学University of Surreyでの文献調査、19世紀のイギリス住居衛生に関する動向としてLetchworth, Welwyn田園都市の視察および現地キュレーターへのヒアリングを執り行った。ベッドフォード・カレッジでの修得内容については、日本生活学会大会において調査結果を報告した。フランス調査では、19世紀イギリスの住居衛生論の形成に大きく影響したと考えられる都市衛生・建築論の関連調査、特に先行して実現されたフーリエのファランステールを実現したギーズのファミリステール等について現地視察と資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目の研究計画は、初年度の調査結果をもとに、主に住居や住環境に纏わる衛生論とスミの視察先について、欧州における文献調査および現地調査と資料収集を目的としていた。欧州衛生論に関する動向のうち、昨年度の基礎調査によってイギリスの住居・都市の衛生論、および、そこに大きく影響したフランスにおける実践的試みが重要と考えられたことから、本年度はこれらについて現地調査を進めた。そこから得られた研究成果のうち、イギリスの衛生専門書と大江スミの修得内容との関連については、平成30年度も一連の研究成果として継続的に日本生活学会大会で研究発表を行う予定である(投稿済)。 また、国内における住居衛生論の展開については、上記の『婦人衛生会雑誌』、『婦人衛生雑誌』の記述内容の傾向について分析を行い、採光、換気、清掃、暖房、起居様式といった要素が議論されていたことが明らかとなった。分析結果から見いだされる傾向は、建築学分野で住居に関する議論がなされる以前の、いわば住居論の素地を形成した時期に展開されたものとして重要な意味をもつと考えられる。そのため、今後もさらに詳細な分析を進め、その結果を学会誌等に発表する予定である。 一方、スミが欧州各国で視察を行った他の訪問先については、本年度中に現地調査を実行することが日程的に難しかったため、平成30年度に実施すべき課題となった。「外国留学生報告」に記載されている訪問先は、現存の確認が容易でないこともあるが、現地の専門家に助言を求めつつ、19世紀欧州および米国における衛生論の実態調査の実現性を高めたい。また、イギリス国内での文献調査(Bedford College、University of Surrey、The British Library等)も、今後さらなる継続が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成30年度は、29年度の継続調査とともに、大江が住居衛生論をどのように展開したのかを検討する。スミが帰国後に女子高等教育機関の要職に着任し、わが国の家政学のリードする存在となったことから、帰国後に展開した住居論はわが国の住居の近代化を大きく方向づけたものであったと考えられるのである。 継続調査としては、(1)大江の留学先機関における衛生論関係のカリキュラム調査、(2)イギリス住居衛生論に関する文献調査、(3)ベルギー、ドイツ、ニューヨーク等におけるスミの調査先(貧民救済施設や社会教育施設など)の視察(可能な限り実施)、(4)明治期日本の住居衛生論の形成過程に関する文献調査と分析、の4点である。 特に、『婦人衛生雑誌』等にみられる当時の通説や最先端の衛生論、開発された装置などについてさらに検証をすすめ、そこから明らかとなった基本的動向と大江スミの著作内容の傾向を相対的に検討することにより分析を行う。住居に直接関わる要素として、具体的には採光、換気、給排水、台所・風呂・便所などの水回り空間の設備や計画の考え方に着目する。さらに、日本国内における住居衛生論が、スミによってイギリスから導入・展開されたた住居衛生論とどのような同異性があり、どのような意味をもっていたのかを検討する。特に、大江スミの著作のうち1916(大正5)年に著された『応用家事精義』は大江の住居論の集大成ともいえ、これと当時のわが国での住居衛生に関する通説と合わせて検討を行うことで、大江の論の位置づけを明らかにする。 以上の調査研究から得られた成果は、学会誌等に投稿するとともに、順次、調査研究のまとめ(リーフレットや電子媒体を含む)として公開する予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた人件費が本年度の実施調査では不要となったため。
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Research Products
(1 results)