2017 Fiscal Year Research-status Report
Memory trace consolidated by new-born neurons
Project/Area Number |
16K18359
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
坂口 昌徳 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (60407088)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 記憶 / 新生ニューロン / 睡眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
ほ乳類の成体脳では、稀な例外を除きニューロンは新生しない。この例外的現象が起こる場所として、ヒトを含む成体海馬内に存在する歯状回という組織がある。歯状回では神経幹細胞からニューロンの新生が生涯続く。この新生ニューロンを上手く利用することで再生医療に応用されることが期待されている(Akers and Sakaguchi* et al., Stem Cells, 2018 Feb)。新生ニューロンは成熟にともない、既存の神経回路に組込まれながら協調して機能回路を形作ると考えられている。これは細胞の数自体の増減を想定していない既存の記憶メカニズム概念とは大きく異なる可能性がある(Aimone and Gage, Neuron, 2011, v33, p1160)。今回我々は、光遺伝学の技術を用い、新生してからの期間が一定(例えば生まれてから4週後)のニューロンを、特定の睡眠期に焦点を当て、その興奮制御が可能なシステムを開発した。このシステムはリアルタイムで睡眠を判定しながら、新生ニューロンの興奮だけを一過性に高い時間分解能で制御できる点で画期的である。そしてこのシステムを用い、特定の発生期にある新生ニューロンの睡眠中の興奮が、恐怖記憶の固定化に必要であることを見出した。また予想したとおり、睡眠中に新生ニューロンが海馬非依存性の記憶に果たす役割は大きくないことも見出された。これは新生ニューロンの睡眠との機能的相関関係を示した初めての研究であり、今後このメカニズムを詳細に解析することで、ヒト脳がもつニューロンの新生を利用した再生医療への応用へ貢献できると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を進める中で、記憶の固定化メカニズムについて新しい知見が得られた。まず予備実験を行う中で、恐怖記憶条件付け課題を用い、恐怖記憶の固定化期間にその内容が影響を受けやすい時期があることを見出している(Fujinaka, Sakaguchi* et al., Mol. Brain, 2016, *責任著者)。これはPTSDの患者に頻繁に認められる記憶の汎化というメカニズムを考える上で非常に重要な知見を与えている。また、恐怖記憶の固定化中に、条件付け刺激を睡眠ステージ特異的に与えることで、睡眠構造自体には影響を与えずに恐怖反応を減弱できることを示した(Purple, Sakurai, Sakaguchi*, Sci. Rep., 2017, *責任著者)。PTSDの患者の治療では、長期暴露療法といわれる治療法がよく用いられる。、これは患者にトラウマとなっている記憶を強制的に想起させ、それにともなう恐怖反応を減弱させるという治療方法が最も効果が確認されている。しかし、この方法は長期間に渡り治療を継続する必要があること、恐怖反応を呼び起こすこと自体が大きな精神的負担となり、治療からドロップアウトする原因の一つにもなっている。我々が今回発見した方法によって、この治療期間中に睡眠時の無意識下に音などの外部刺激で恐怖反応を減弱させることができれば、患者の精神的負担を減少させ、治療期間を短くすることも可能になるかもしれない(Akers, Sakaguchi* et al., Stem Cells, 2018, *責任著者)。
|
Strategy for Future Research Activity |
新生ニューロンが睡眠中に記憶を固定化するメカニズムを検討するために、複数の遺伝子組換えマウスを交配させ、睡眠時期特異的に新生ニューロンの活動を制御する技術の開発を進める。また実験系自体がワークすることを確かめるため、遺伝子発現を促すドキシサイクリンやタモキシフェンといった薬剤を与える方法、それがマウスの致死率や記憶行動における成績への影響を個別に精査する。この過程で、1.ドキシサイクリンを与えず遺伝子発現を抑制しない状態、すなわちベースラインにおける光受容体発現がどの程度であるか、2.このベースラインが、ホームケージ、学習コンテクスト暴露、電気ショックを伴う学習などによってどの様に変化するか、3.ドキシサイクリンによってこれらの遺伝子発現がどの程度抑制されるか、における情報を精査する。この際、歯状回の新生ニューロンについて前後、背腹、側副軸すべてにおいて検討する。また光路内にほかのニューロンに光受容体が発現していないかについても確認する。これには脳皮質、海馬のCA1, CA3などが対象となる。我々は、マウス成体であっても10週齢に満たない場合、コンテクスト条件付課題の成績が、より老齢のマウスに比べて低く出るという事実を見出している。しかし、今回の実験では極端に光受容体を発現するニューロンの数が少なくなることが予想される。成体のニューロジェネシスは4~8週齢付近で極端にその数が減少することが知られている。そこで、成体の比較的若い状態でタモキシフェンを投与し、遺伝子導入を行う必要性が有る。そのため、一般的に成獣と認められる6週齢に到達した直後からタモキシフェンを投与する。上記の条件は、全てのマウスにおいて一定にすることで、学習成績の分散値を極小化し少ないマウスで最大の統計的有意差検出を行う。
|
Research Products
(19 results)