2017 Fiscal Year Research-status Report
急流に特化したカエルの1系統に生じた顕著な種分化現象に関する生物地理学的研究
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16K18600
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
島田 知彦 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30610638)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ボルネオハヤセガエル / 未記載種 / 幼生の形態的特徴 / 博物館収蔵標本 |
Outline of Annual Research Achievements |
ボルネオ島の流水環境で顕著な種分化を遂げているボルネオハヤセガエル属の、インドネシア領内での多様性の把握を目的として、インドネシア・ボゴール動物学博物館に滞在し、収蔵されている標本の整理、および計測を行った。また、南カリマンタン州メラトゥス山系において短期間の野外調査を行い、標本を作製した。これまでインドネシア領内における本属の多様性はほとんど未解明の状態であったが、今回の調査を通してそのおおまかな姿が明らかになってきた。以下にその結果の概要を述べる。 (1)博物館収蔵標本のうち、インドネシア領内の複数の地点から採集されているある形態型は、一見してマレーシア領内で採集されてきたどの種とも大きく異なる特徴を持つ。この標本については、液浸標本からのDNA抽出を試みたが成功しなかったため、分子遺伝学的解析を行えていないが、未記載種である可能性が高い。 (2)野外調査で得られた標本は、分子遺伝学的にはマレーシア領内で得られているある1群の系統に含まれるが、この1群は、これまでも各地で成体や幼生の形態的特徴に異なる点が見られており、実態の捉えにくい種である。今回インドネシア領で得られた幼生の形態も、従来他地域で得られたどの幼生とも異なっていたことから、複数の種に分割する必要があると考えられる。 (3)本属には大きく分けて大型の種と小型の種が存在する。これまで大型種はマレーシア領サバ州とその周辺にしか知られていなかったが、インドネシア領内の情報がほとんどなく、実態は未解明のままだった。今回、博物館収蔵標本を多数検討したが、大型種はインドネシア領内でもサバ州との国境付近でしか採集されておらず、本属の大型種がボルネオ島内でもサバ州周辺に固有なグループである可能性が示唆された。また、同所的に出現する種の内訳を見ても、ボルネオハヤセガエル属の多様性の中心がサバ州にあることが改めて浮き彫りとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の進捗にあたっては、インドネシア政府の調査許可取得が難航していることが大きな影響を及ぼしている。本来であれば平成28年度の年度末には許可を取得しており、野外調査を始めているはずであったが、実際には諸事情から予定より大幅な遅れを取っており、平成29年度末時点でようやく許可の道筋が見えてきた段階にある。これに伴って、当初は初年度からインドネシアで野外調査を行うとしてきた計画を変更し、平成28年度はマレーシア領サラワク州での調査、平成29年度は、博物館収蔵標本調査と、現地カウンターパートの調査に同行する形での短期の野外調査を行うことで、研究計画を変更し、研究を進めてきた。このため、当初想定していた内容をそのまま実現することはできていないが、それでも研究題目を大きくはずれることなく計画を修正し、ある程度の成果が挙がっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究遂行上、最も大きな課題であった調査許可に関しては、ようやく取得できる見込みが立った。当初3年間で予定していた調査候補地をすべて最終年度に回ることはできないが、その代わり博物館収蔵標本の精査を重点的に行ったため、インドネシア領内のボルネオハヤセガエル属の多様性についてかなり概要がつかめており、また最終年度で調査する予定であった南カリマンタン州メラトゥス山系について、平成29年度で下見的な調査を行ったことから、調査計画を現実的に立てやすい状態になっている。最終年度はこのメラトゥス山系の調査を徹底して行い、これまでに見えてきた課題に対して、分類学的な結論を得ることを目的とする。また、得られた結果を整理し、ボルネオ島全島規模でのボルネオハヤセガエル属の多様性の解明を試みる。
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Causes of Carryover |
本来、初年度からボルネオ島インドネシア領の奥地で野外調査を行う予定にしていたため、移動に動力船や航空機を使用し、現地協力者を雇用することを想定し、充分な旅費を設定していた。しかし、他欄で述べた事情でインドネシア政府の調査許可取得が大幅に遅れたため、現時点では博物館収蔵標本の調査に重点を置いており、野外調査としては予備的な調査にとどまっているため、予定通りの執行が行えていない。今年度は当初1回予定していた野外調査を2回に増やし、また現地に随行する協力者を増員する等して調査内容を充実させ、予算を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)