2017 Fiscal Year Research-status Report
血小板P2Y受容体ヘテロ多量体は敗血症病態形成の新たな創薬標的となるか?
Project/Area Number |
16K19015
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
鈴木 登紀子 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 助教 (10415531)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 敗血症 / 播種性血管内凝固症候群 / 血小板膜受容体 / P2Y1受容体 / P2Y12受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
敗血症は、高齢者人口の増加、悪性腫瘍や移植時の化学療法などによる免疫機能の低下、多剤耐性菌の出現などにより、現在においてもなお高い死亡率を有している。2016年に敗血症は「感染に対する制御不能な宿主反応による生命に関わる臓器不全」と再定義され、敗血症性ショックや多臓器不全への進展を回避するための時宜を得た治療法を見出すことが現在救命救急領域で求められているニーズである。敗血症では播種性血管内凝固(DIC: Disseminated Intracellular Coagulation)の臨床症状が出現すると予後不良となり、その致死率は50%を超えるため、臨床症状がない時点でいかにDICの発症を予防するかが重要な課題となっている。 DICを引き起こす血小板には種々の受容体が発現しているが、そのうち血小板活性化にはP2Y1受容体、凝集反応にはP2Y12受容体が大きな役割を担っている。申請者は、これらの受容体間でヘテロ多量体が形成され、シグナル伝達に相互作用があることを報告した。代表的な抗血小板薬クロピドグレルはP2Y12受容体の遮断薬であるが、敗血症の症状緩和にも効果的であることが示唆されている。申請者はこれらより、本研究において敗血症病態におけるP2Y1-P2Y12受容体の関係について明らかにし、ヘテロ多量体を標的とした敗血症治療創薬の新たな突破口を開くことを目的とした。 侵襲的にヒト血小板を入手するには困難があるので、代替材料として多数の論文で使用実績があるヒト血小板前駆体巨核芽球由来培養細胞MEG-01を利用することにした。本細胞に敗血症様刺激を施し、P2Y1受容体とP2Y12受容体の発現量について基礎的データを得た。また高グルコース刺激、インターフェロンガンマ刺激、更に抗血小板薬であるシロスタゾールにこれらの受容体発現制御作用があることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
糖尿病を模した高グルコース刺激によって血小板におけるP2Y12受容体発現量が制御される経路が昨年8月に発表された(Circulation.136:817-833)。よって本経路についてヒト血小板前駆体巨核芽球由来培養細胞MEG-01を用いて追試したところ、文献通り高グルコース刺激でP2Y12受容体のmRNA発現量が増加し、NFkB阻害薬によって有意に抑制されるとの再現を得た。また所属研究室において研究実績が蓄積されており、抗血小板薬プレタールとして広く繁用されているシロスタゾールによってもP2Y12受容体発現について有意に変化がもたらされるという大変興味深い結果を得た。 P2Y1受容体の発現制御に関しては現在に至るまで報告は少なく、血小板及びその関連細胞においては全く報告がない。他の細胞種では、ケラチノサイトにおいてインターフェロンガンマ刺激がその発現を増加させることが報告されている(J Invest Dermatol 127, 660-7)。ヒト血小板前駆体巨核芽球由来培養細胞MEG-01を用いてこれについて検討したところ、ケラチノサイトと同様にその刺激によりP2Y1受容体発現量が上昇するという世界初の知見を得た。インターフェロンガンマは敗血症を増悪させる因子として知られており、播種性血管内凝固における血小板P2Y1受容体の役割を初めて明らかにできる糸口となる可能性がある。 よって当初の計画に加えて新規の発現制御経路を見出すことができたので、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
交通手段の発達による運動不足、高脂肪食の摂取や、さらには現代社会におけるストレス、過度の飲酒等で肥満や生活習慣病は増加の一途を辿っている。そのうち2型糖尿病は特に急速な増加を示しており、全糖尿病罹患者数は世界の219の国と地域で2035年には5億9200万人に上ると試算されている。長期にわたって高血糖状態が続くとさまざまな糖尿病性慢性合併症が引き起こされるが、そのうち三大合併症と称される網膜症、腎症、神経障害は細小血管障害によるものと考えられている。これら糖尿病性慢性合併症はQOLの著しい低下を示すばかりか、医療費の莫大な増加の一因ともなっており、最悪の場合死に至る事態となる。糖尿病患者は免疫力の低下、白血球の機能低下、血管障害による末梢への酸素運搬能力の低下により、あらゆる感染症に罹患しやすくなるが、重症感染症の一つである敗血症になるリスクも高いとされている。今後も引き続きヒト血小板前駆体巨核芽球由来培養細胞MEG-01を用いて高血糖とインターフェロンガンマ刺激によるP2Y1受容体、P2Y12受容体の発現及び活性への影響、更にはこれらの受容体の相互作用について精査して行く。受容体活性の評価には、P2Y1受容体については代表的なGタンパク質の一つであるGqを通して細胞内カルシウムイオン濃度が上昇するのでカルシウムインジケーターを用いてそれを測定し、P2Y12受容体に関してはGiタンパク質経由で細胞内cAMP濃度が高まることでリン酸化VASPが低下し、Giタンパク質のベータ・ガンマサブユニットの働きによってAktのリン酸化が亢進することが報告されているので、それらの解析を順次進める。
|