2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K19736
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Research Institution | Ohu University |
Principal Investigator |
大原 宏司 奥羽大学, 薬学部, 助教 (30629902)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 尋常性乾癬 / 細胞外ATP / EGFファミリー / IL-33 |
Outline of Annual Research Achievements |
三次元モデルヒト表皮を用い、細胞外ATPが誘導する尋常性乾癬の発症・悪化に関与する新規バイオマーカーの探索と同定を試みた。DNA microarray法による網羅的遺伝子発現解析の結果、延べ291遺伝子の有意な発現上昇が認められた。さらに、従来のヒト表皮基底層との比較解析により、HB-EGF、AREG、cyclin A1、IL-24およびPTGS2など細胞外ATPが誘導する新規遺伝子群を明らかにした。 今回新たに見出した遺伝子群は、細胞増殖、免疫応答およびアレルギーに関与する因子として知られており、特に上皮成長因子(EGF)ファミリーに属するHB-EGF、AREGは表皮ケラチノサイトのオートクライン増殖因子として機能する一方、尋常性乾癬の病変部において高発現し、病態に深く関与していることが報告されている。さらには、EGF受容体のtransactivationによるサイトカイン産生が明らかになっており、EGFファミリーの炎症性疾患への寄与が分かっている。 そこで次に、三次元モデルヒト表皮においてEGFファミリーが惹起する炎症性サイトカインの発現を予測し、尋常性乾癬の憎悪因子として近年注目を集めているIL-33の誘導に着目した。qRT-PCR法を用いてHB-EGF、AREGおよびIL-33の経時的なmRNAの発現解析を行った結果、HB-EGF、AREGともにATP刺激後、経時的に同一の変動を示し、有意な発現が認められた。一方、IL-33の発現はHB-EGFおよびAREGの発現が消失した後に誘導されることが判明した。これらの結果は、EGFファミリーによるIL-33の発現誘導を引き起こす可能性を示唆するものであり、細胞外ATPが誘導するHB-EGF、AREGおよびIL-33は、尋常性乾癬の発症・悪化メカニズム解明に有用な新規バイオマーカーになり得ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画の中で、DNA microarray法により三次元モデルヒト表皮において細胞外ATPが発現誘導する遺伝子群の網羅的解析結果と従来の表皮基底層のみの検討で得られた結果と比較解析したところ、新規に発現する遺伝子群を見出すことに成功した。これらの中には尋常性乾癬の発症および悪化に密接に関与する遺伝子が存在し、細胞外ATPが誘導する尋常性乾癬における新規バイオマーカーの探索と同定については予定通り行うことができたと考えている。加えて、今回の検討で見出されたEGFファミリーがセカンドメッセンジャーとして炎症性サイトカインIL-33の発現を惹起する可能性を示唆する結果も得ることができた。しかしながら、年度内にこれら同定された新規バイオマーカーのタンパク質レベルでの評価解析に着手することができず、年度をまたいで着手する形となる。今後の展開として、P2受容体またはEGF受容体を介したIL-33の発現に関する細胞内シグナル伝達機構の解析を進めることで、尋常性乾癬の発症および悪化メカニズムの解明において新たな知見を得ることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討から、三次元モデルヒト表皮において細胞外ATPが誘導する尋常性乾癬の発症・悪化に関与する新規バイオマーカーとして、EGFファミリーおよびIL-33を提唱した。また、EGFファミリーによってIL-33の発現を誘導することが示唆されたものの、現段階では飽くまで現象を捉えたに過ぎず、これらの関連性の詳細は不明である。そこで、当初は尋常性乾癬病変部のDNA microarray解析と細胞外ATPの機能評価に関して検討を進めていくことを計画していたが、尋常性乾癬の発症・悪化に密接に関与するIL-33の発現機構の解明にフォーカスした尋常性乾癬における細胞外ATPの機能解析を加速する。すなわち、P2受容体、EGF受容体およびその下流シグナル伝達経路における各種阻害剤を用い、どの分子の関与が大きいのかを検討し、尋常性乾癬の治療を指向した細胞内シグナル伝達の解明を進める。 また、三次元モデルヒト表皮において細胞外ATPが誘導する新規遺伝子群と尋常性乾癬の病態に影響を与える遺伝子の検索とその意義について引き続き検討を行う。
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Causes of Carryover |
当初計画していたよりも円滑に実験を進めることができ、研究は概ね順調に進展しているが、細胞外ATPが誘導する尋常性乾癬の新規バイオマーカーのタンパク質レベルでの発現評価についての着手が年度をまたぐ形となり、次年度使用額に計上することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度得られた研究成果に対して細胞内シグナル伝達機構の解明等、分子生物学的手法による実験および解析に使用するとともに、最終年度の成果創出のための英文校正ならびに論文投稿費等に次年度使用額を充てる予定である。
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