2017 Fiscal Year Research-status Report
現代オーストラリアにおける脱植民地化と共和制論争の通時的分析
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16K20938
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
津田 博司 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30599387)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オーストラリア / 連合王国 / 脱植民地化 / 共和制 / 君主制 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1988年のイギリス入植200周年祭を題材として、イギリス帝国崩壊後のオーストラリアにおける歴史観の変容、とりわけ先住民の経験に代表される植民地時代の歴史的評価をめぐる議論の分析に取り組んだ。その一環として、8月12日から9月11日にかけてオーストラリア国立図書館およびニューサウスウェールズ州立図書館での1980年代の状況に関する史料調査、1月24日から28日にかけてメルボルンでの現在の先住民による政治運動に関するフィールドワークを実施した。 オーストラリアでは長らく、1788年にイギリスによる領有が宣言された1月26日(オーストラリア・デイ)が「建国記念日」として位置づけられてきた。入植200周年は自国史の称揚を通じた国民統合の機会として大規模な記念事業が行われた反面で、先住民にとっては「侵略」の始まりでもある植民地化を無批判に「建国」の起源とする伝統的歴史観をめぐって、先住民や当時勃興しつつあった先住民史の研究者からの批判を生じた。今年度の研究からは、新聞などの主要メディアにおいて先住民の声が取り上げられることは稀であったものの、入植者の子孫が多数を占めるマジョリティが植民地主義や人種主義と結びついたアイデンティティへの内省を迫られる様相が明らかとなった。非先住民を巻きこんだ「脱植民地化」の運動は現在、植民地時代からの伝統を象徴する君主制の是非などを争点に含みながら、オーストラリア・デイそのものの廃止を訴えるまでに至っており、そうした過程の契機としての1980年代の重要性が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所定の研究実施計画に基づいて、前年度に論じた1970年代の脱イギリス化を経た後のオーストラリアにおける自意識の変容(とりわけ、先住民というマイノリティの再発見)について、多くの知見を得ることができた。今年度中の刊行には至らなかったものの、研究成果を論文として学術雑誌へ投稿したほか、筑波大学において開催が予定されているオーストラリア学会でのシンポジウムを組織するなど、最終年度に向けた成果発表も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は1999年に行われた共和制をめぐる国民投票などを対象として、1990年代以降の共和制論争について考察する。今年度の研究を通じて明らかとなったマイノリティの動向や多文化主義という新たな国民統合の原理を前提として、明確な「他者」となったイギリスとの関係に改めて着目することによって、旧イギリス帝国植民地・宗主国における複合君主制の変容について、オーストラリアおよびイギリスでの史料調査による解明を目指す。
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