2016 Fiscal Year Research-status Report
まつたけ山施業の土壌微生物相への影響を次世代アンプリコンシーケンス解析で解明する
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16K20964
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒河内 寛之 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 特任研究員 (00609000)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マツタケ / SSRマーカー / 次世代シーケンサー / メタゲノム解析 / 土壌DNA / 灌木処理 / リター除去 / マイクロバイオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
長野県の2か所のアカマツ林を主な調査対象地として林内整備を行った。併せて約2ヘクタールの林内で灌木処理及び地掻き処理区、灌木処理区、地掻き処理区、無処理区を準備し、定期的に各種処理による林内の変化を観察し、本研究課題遂行に向けた固定プロットの設置場所を検討し、小プロットの設置を順次開始した。 土壌DNAのメタゲノム解析について、主に、マツタケの発生が確認された調査対象地において、マツタケの発生場所の土壌を採取し、DNA抽出後にリボソームDNAのITS2領域のアンプリコン解析を実施したところ、マツタケの周囲にはマツタケ以外にも十~数十種の担子菌や子嚢菌に属する菌類が分布していることが示唆された。一方、土壌DNAのアンプリコンシーケンスにおいて、定性的なマイクロバイオームの把握にはある程度信頼が持てるが、定量的なマイクロバイオームの把握の正確性には疑問が残った。特に、土壌のサンプリング方法やライブラリー作成時のPCR条件などの違いにより結果に少なからず変化が生じてしまう点は、今後の研究期間で改善していく課題として認識できた。 マツタケを個体レベル(ジェネットレベル)で識別するために、種内変異が高いマイクロサテライトマーカー(SSRマーカー)の利用を検討した。長野県産のマツタケ子実体のドラフトゲノムから作成した20対程度のSSRマーカーの大部分は、マツタケ特異的であることが分かったが、一部、マツタケと同属の他種でも増幅可能で、コンタミが疑われる土壌DNAを解析する際には、利用するSSRマーカーを注意して選抜する必要が示唆された。また、土壌DNAをテンプレートとして用いた場合、土壌DNA中のマツタケDNAの占める割合や量により、開発したSSRマーカーでの増幅効率に差があったので、汎用的な手法として確立するには今後の研究期間で改善の余地があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度は、調査対象地として利用している2か所のアカマツ林において、灌木処理や地掻き処理と言った「まつたけ山施業」で実際に推奨される処理を1ヘクタールほどで行い変化を継続的に観察することで、どのような子実体がどこから出てきやすいのかのおおよその傾向を把握することができ、今後土壌微生物相の変化を追跡するための施業プロットの設置場所の目途が立った。 土壌微生物相の解析に関して、マツタケの発生場所の土壌から抽出した環境DNAを用いて主にリボソームDNAのITS2領域に着目したメタゲノム解析を行った。土壌サンプリング方法やPCR条件により結果が変わってしまうため、普遍的な結果に向けて、より正確な条件検討の必要性を認識した。既報研究では、メタゲノム解析結果から定量的解析を行っているものが少なくない。しかし、定性的評価に関してはある程度信頼できるが、定量的評価に関しては科学的正確性が十分に担保されていない可能性があることが分かった。 マツタケ特異的マーカーとして、マイクロサテライトマーカー(SSRマーカー)の有効性に期待してマーカー開発を進めた。マツタケの発生する場所の近傍から採取した50種類以上の菌類から採取したDNAを比較対象に用いて検討を行ったところ、マツタケのドラフトゲノムから開発したSSRマーカーの大部分はマツタケから抽出したDNAしか増幅しないことが明らかとなった。一方、一部のSSRマーカーはマツタケの同属他種も増幅することが分かった。より特異性の高いマーカーを用いることで、土壌DNAからのマツタケ同定ができる可能性が高いことが分かった。また、土壌DNA中に十分なマツタケのDNAが含まれていないと、あるいは、マツタケのDNAの割合が高くないと、SSRマーカーでは増幅しにくい可能性があることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
まつたけ山施業の内、灌木処理と地掻き処理に主眼を置いて今後の研究を進めていく方針の目途は立ったが、これらの処理を定量化することが困難である。そこで、本年度は今後追跡を続ける小プロットに対しては、一律の処理方法を採用して、研究を残りの期間続けることにする。すなわち、灌木処理に関しては、小プロット内およびその周囲1m以内のアカマツを除くDBH(地上120㎝の直径)が10㎝未満の個体を全て取り除く。また、地掻き処理については、小プロット内とその周囲1m以内の全てのリター層(A0層)を取り除く。それ以外の場所に関しては、今まで通りの施業を施しておく。 土壌DNAのアンプリコンシーケンシングについては、約40個ある小プロットから一律の方法でサンプル採取を続け、解析試料とする。加えて、小プロットの内4か所をえらび、サンプリング方法と結果との整合性について検討する。結果は、全プロットで一律の方法で採取したサンプルに関しては、それぞれを比較することで結論を得る予定である。一方、4つの小プロットを使った解析方法の検討に関しては、将来的により科学的に妥当な手段を提示できるようなものとしてまとめる予定である。 マツタケ特異的プライマーについて、開発したSSRマーカーの特性を理解するために、明らかにマツタケの分布する土壌から抽出したDNAが、どのような状態であれば増幅するのかを検討する。現状では、採取方法、土壌の保存方法、土壌DNAの抽出方法の観点からの検討と、マツタケDNAの質と量の観点からの検討を実施する予定である。並行して、マツタケの分布が確認された調査地の1つを用いて、開発したSSRマーカーで土壌からの追跡が可能かどうかも検討を始める。
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Causes of Carryover |
初年度の研究結果を基に、投稿論文になるデータが一通りそろったため、オープンアクセス誌へ投稿した。年度内(2016年度内)に受理された際には、その支払いが必要となるため、2017年2月の段階で15万円分ほど残しておいた。しかし、査読に時間がかかっており、年度内の受理は見込めなくなった。そのため、残しておいた約15万円を使い、学会発表や試薬購入を行ったが、一部は使い切らなかった。事務の担当者の方と連絡を取り、次年度も利用可能ということであったので、次年度の投稿料などの一部に充てる予定で、当該助成金を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在投稿中の論文やこれから作成する投稿論文の投稿料の一部として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)