2016 Fiscal Year Research-status Report
インスリン抵抗性改善食品因子を利用した健全な脂質筋の作製と栄養生理学的利点の解明
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16K21349
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
落合 優 北里大学, 獣医学部, 助教 (80750546)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 2型糖尿病 / NSYマウス / 黒ショウガ抽出物 / PPARγ / 骨格筋脂質 / アディポネクチン |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋内脂質蓄積は必ずしも生活習慣病を増悪させるのではなく、善玉であるアディポネクチンの産生および分泌を高め、2型糖尿病を改善する可能性がある。 骨格筋脂質蓄積を高める方法として、メトキシフラボノイドが含まれる黒ショウガに着目し、PPARγのリガンド結合部位に対する結合活性をin vitroにて探索し、エタノール抽出物に比活性が高くなる結果を得た。他に評価したショウガ科原料や生物資源でPPARγリガンド結合部位に対する活性をより高めるものは見られなかった。 In vivoでは、実験動物に2型糖尿病モデルのNSYマウスに黒ショウガのエタノール抽出物を高脂肪高ショ糖食に加えて給餌し、2型糖尿病に関する指標を検討した。黒ショウガおよびそのエタノール抽出物群は抗肥満作用を示し、また、耐糖能を評価したところ、血糖値が著しく低く推移する結果となった。しかしながら、骨格筋脂質含量および血中アディポネクチン濃度を高める結果は得られなかった。 本結果より、黒ショウガのPPARγリガンド結合を介した2型糖尿病改善作用の主要成分は少なくともエタノール抽出物に含有されるが、骨格筋脂質含量やアディポネクチン濃度に反映されなかった。このことから、エタノール抽出物にはPPARγを活性化する成分だけでなく、他の作用機序で2型糖尿病を改善する効果を発揮する成分が含まれることが示唆された。 PPARγは肥満を助長する遺伝子である。昨今の肥満や糖尿病をターゲットとする食品はPPARγを不活性化させる成分を関与成分とすることが多い。しかし、本研究は対照的であり、従来とは異なる糖尿病改善機序の提案とその候補となる食品成分の提案となる結果である。また、日本人の糖尿病の特徴は非肥満型であり、アディポネクチンの産生および分泌がされにくいことから、その点を改善するPPARγ活性化成分を探索と作用機序の解明が重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
PPARγ活性化だけでなく、それ以外の機序によっても黒ショウガおよびそのエタノール抽出物は抗糖尿病作用を発揮する可能性が示唆される良好な結果を得ることができた。しかし、In vitro試験の結果から、黒ショウガのエタノール抽出画分に含まれるPPARγを活性化する新規成分の同定には至らなかった。また、in vivo試験において、予想に反して、PPARγ活性化に伴う耐糖能改善作用と骨格筋脂質蓄積作用や血中アディポネクチン上昇作用との相関性が確認できず、その理由を明確にするまでには至らなかった。そのことを証明するため、「PPARγのアンタゴニストを同時に用いた場合、黒ショウガおよびそのエタノール抽出物の耐糖能改善作用は解除されない」という仮説を立てた動物実験を検討している。現時点では実験動物の飼育過程であるが、その動物試験は予想通りに行かないときの対処法の一つとして計画していたため、試験開始までの着手はスムーズにできた。 また、骨格筋内における黒ショウガおよびそのエタノール抽出物の作用を組織特異的に検討する培養細胞系を用いた試験系の立ち上げと試験系の確立に取り組んでいるが、少し遅れている。試験系の確立後、PPARγ等脂質合成に関係するタンパク質の発現に対する黒ショウガおよびそのエタノール抽出物の影響を検討する。 さらに、2型糖尿病モデルマウスだけでなく、肥満モデルマウス、高齢モデルマウスの骨格筋を用いて黒ショウガおよびそのエタノール抽出物の骨格筋脂質代謝への作用についても検討しており、骨格筋などサンプルの回収まで行い、現在は骨格筋脂質含有量の測定や脂質代謝に関連するタンパク質発現等を検討している。これらの点ははおおむね予定通りであるが、運動時の骨格筋を用いた試験を含めて早急にするべき試験である。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では、黒ショウガおよびそのエタノール抽出物に抗糖尿病作用を発揮する可能性が示唆されたが、その作用機序はPPARγの活性化だけではなく、その他の抗糖尿作用を有する遺伝子を活性化した可能性も考えられる。その点を証明するために、PPARγのアンタゴニストを黒ショウガおよびそのエタノール抽出物と同時に投与した場合に、黒ショウガおよびそのエタノール抽出物の耐糖能改善作用は解除されないということを2型糖尿病モデルマウスを用いて明らかにする。さらに、骨格筋脂質代謝関連タンパク質等の発現についても検討し、骨格筋脂質代謝と耐糖能との関連性を明らかにする。その過程については、培養細胞系の試験を加えて検討する。 骨格筋脂質の成分別定量に関しては、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いた定量解析を予定したが、高精度の薄層クロマトグラフィー法及びガスクロマトグラフィー法で測定できることを確認したため、現状の手法で骨格筋脂質定量を継続する。 また、黒ショウガのエタノール抽出画分に含有されるPPARγアゴニストの精製と同定についてはより細かい抽出法を検討し、基地のアゴニストとは異なる活性成分の同定に取り組む。
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Causes of Carryover |
旅費に関する差額は、請求額を2017年4月に開催されるExperimental Biology 2017にて主に使用するため、2016年度は使用しなかった。 1年目分として計画・請求した物品費の差額(46,406円)と2年目分として請求した金額を合わせた金額は、1年目に消耗品である試薬や器具に多く充て、購入を予定していたエバポレーターに充てなかったことが理由である。 その他の差額は本研究で得られた成果を論文として発表する際の英文校正費または投稿料に充てるために使用しなかったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費に関する差額は2017年4月に開催されるExperimental Biology 2017および2017年10月の日本肥満学会または2018年3月の日本農芸化学会にて本研究成果を発表する際に使用するため、おおむね予定通りの金額の支出となる予定である。 1年目分として計画・請求した物品費の差額(46,406円)と2年目分として請求した金額を合わせた金額は、1年目に購入を予定していたエバポレーターの購入および物品費(2年目の研究)にすべて充てる予定である。 その他の差額は消耗品の購入の際の振込手数料および本研究で得られた成果を論文として発表する際の英文校正費または投稿料に充てる。
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