2016 Fiscal Year Research-status Report
若年層の経済支援に関する定量的な分析と、より有効な少子化対策の提示
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16K21558
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Research Institution | The International University of Kagoshima |
Principal Investigator |
福井 昭吾 鹿児島国際大学, 経済学部, 准教授 (80380690)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 所得分布 / 少子化 / 計量経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、若年層の経済状態およびその地域差について現状を把握し、若年層の経済状態と少子化との関連を明らかにした上で、少子化対策として有効な政策を提示することである。若年層の経済状態、特に、若年層の所得の現状を地域ごとに把握することは、利用可能なデータが制限されているために、非常に難しい。研究代表者は、この制約を克服するために利用可能なデータが制限された状況においても若年層の所得分布を推定できる手法を開発し、若年層の所得の現状について分析を進めてきた。 今年度は、この推定方法の改良、九州・沖縄の諸地域を対象とした若年層の所得の現状分析、および、若年層の所得と出生数との関連に関する定量分析を行った。 これまでに開発した推定方法に対して、モデルの改良を行うことで推定精度を向上し、また、推定の際の数値計算においてGPUによる並列計算を導入することで、計算時間の大幅な短縮を実現した。 鹿児島県内の5地域について、この推定方法を使って若年層の所得分布を推定し、若年低所得層の割合を導出した。その結果、鹿児島市から遠い地域ほど、若年低所得層の割合が高いことを明らかにした。例えば、40歳未満かつ年収300万円以下世帯の割合は、北薩・南薩地域で20%前後であるのに対し、姶良および伊佐地域・大隅地域・島嶼部で25%前後となった。 また、分析対象を九州・沖縄の諸地域へ拡大し、上述の推定法を用いてこれら地域の若年層の所得分布を推定し若年層低所得層の割合・若年層の平均所得を求め、これらの数値と出生数との関連について定量的に分析した。その結果、九州・沖縄において、若年層低所得層の割合・若年層の平均所得が出生数に対して有意な影響を与えていないこと、出生数が決定する仕組みが九州と沖縄とで異なっていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内諸地域における若年層の所得・資産・消費の分布について推定すること、また、その結果に基づき若年層の経済状況と少子化との関連を定量的に分析することを平成28年度の研究計画としていた。 若年層の所得・資産・消費の分布の推定については、推定精度・計算速度の向上を通じて、効率的な推定手法を確立した。特に、GPUワークステーションの導入による計算速度の向上は計画を大きく上回った。GPUによる並列計算の導入以前は1回の推定に2時間程度を必要としていたが、導入後は1回の推定を20秒程度で行うことが可能となった。一方で、この効率化を実現するために想定以上の時間が必要となった。GPUワークステーションによる効率的な計算のためには、特殊なプログラミング言語や手法を用いる必要があり、予想より多くの時間をその習得と実装に費やすこととなった。その結果、平成28年度は、九州・沖縄の諸地域を対象に、若年層の所得分布を推定するにとどまった。 若年層の経済状況と少子化との関連について、若年層の経済状況が出生数に与える影響を分析するためのモデルを開発し、九州・沖縄の諸地域を対象にこのモデルによる分析を行った。総務省「全国消費実態調査」で公表されるデータから、地域ごとに若年層の所得分布を推定することで、各地域の若年層の平均所得・若年低所得層の割合を計算した。また、総務省「社会・人口統計体系」より、経済規模・教育水準・失業率など出生数に影響しうる要因について、地域ごとにその数値を求めた。その後、これらの要因が出生数に対して有意に影響を与えるか、あるいは、その影響の大きさはどの程度か、などの事柄について分析するために、若年層の経済状況・経済規模・教育水準・失業率を説明変数、出生数を非説明変数とするモデルを構築し、九州・沖縄の諸地域のデータに基づいてこのモデルを推定し分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、平成28年度に予定していた計画を速やかに遂行する。平成28年度は、若年層の経済状況を推定する計算プログラムの作成に、予想より多くの時間を費やした。しかし、その結果として推定を行う際の計算時間を大きく短縮することに成功した。当初の計画では、国内の240地域について若年層の所得・資産・消費分布の推定に約3ヶ月を見込んでいたが、推定方法の効率化によりその期間を1ヶ月程度に短縮することが可能となっている。また、少子化と若年層の経済状況との関連について、分析の土台となるモデルの構築が完了している。以上のように、平成28年度に予定していた計画を実行するための準備は整っており、これを速やかに完了することが可能である。 第二に、少子化対策の有効性について定量分析を行う。これまでに、国内や海外で様々な少子化対策が行われてきたが、統計分析を通じてその効果を明らかにする。国内を対象として、「子ども手当」などの少子化対策が行われた前後で若年層の平均所得・出生率といった数値が有意に変化したかどうかを、統計的手法を用いて明らかにする。また、若年層の平均所得や出生率の変動を説明するモデルを構築することで、国内で行われた少子化対策の効果や、海外の少子化対策が日本で行われた場合の影響について定量的に考察する。 第三に、これらの結果に基づき、どのような政策が少子化対策として有効かを提示する。地域別の分析を行うためのデータが利用可能ならば、地域別に政策の有効性を考察し、各地域に適した政策の提示を試みる。九州・沖縄の諸地域を対象とした分析で、九州と沖縄とで、出生数が決定する仕組みが異なっていることが分かった。そのため、有効な少子化対策は地域の特性によって異なると考えられる。そこで、特に出生率の低い都市部を対象に、出生数を増加させうる方法を考察する。
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Causes of Carryover |
本年度は、GPUワークステーションの購入にすべての予算を充当する予定だった。しかし、GPUワークステーションの価格が当初より下がったため、予算との間に差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分の助成金と合わせた使用計画として、学会での成果発表・研究会参加のための旅費(東京2回、福岡2回)、英文校正等の人件費・謝金、図書・事務用品等の消耗品費をそれぞれ計上している。
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Research Products
(3 results)