2017 Fiscal Year Research-status Report
高度な地球化学分析手法を用いた回遊魚類の生息域履歴推定法の確立
Project/Area Number |
16KT0028
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田副 博文 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 助教 (60447381)
水川 薫子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50636868)
北川 貴士 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50431804)
横内 一樹 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, 研究員 (50723839)
|
Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
|
Keywords | ネオジム同位体 / 鉛同位体 / ストロンチウム同位体 / 産地判別 / 回遊 / クロマグロ / ニホンウナギ |
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能な水産資源利用のためには科学的知見に基づいた適切な資源管理が必要不可欠であり,とりわけ資源の加入に貢献する集団がどの海域で生まれ,どのような回遊経路を経て再生産に至るのかを把握する事は管理方策を決定する上で非常に重要である.本研究の目的は「回遊魚類の生息域履歴の推定法の開発」であり,脊椎骨のネオジム・鉛・ストロンチウム同位体組成,耳石の放射性炭素濃度,肉の有機汚染物質組成を分析する事で魚類の回遊履歴を推定する手法の確立を目指す.いずれの化学組成も地域・海域ごとに固有の組成を持ち,生物学的要因の影響を受けにくく環境中の組成を反映するという特徴を持つ.分析で得られたデータは,海水組成や地質など既知の環境データと比較する事で有用性を検証する.海洋魚類のモデル生物としてクロマグロ,淡水魚のモデル生物としてニホンウナギ,を対象として研究を進める. 2016年度に実施したマアジを用いたネオジム同位体比の予備的な実験結果から,沿岸域においては外洋の同位体比組成よりむしろローカルな地質の組成を反映することが明らかとなったが,魚を用いた予備実験では魚の行動がわからないという根本的な問題から解釈が非常に困難になることが判明した.そこで2017年度は,東北・関東の太平洋沿岸から採取したムラサキイガイと中国から採取した二枚貝類のネオジム同位体比の分析を実施した.その結果,貝殻中のネオジム同位体比は後背地の地質と整合的な組成を示すことが明らかとなった.つまり,古い地質が広がっている中国の試料は低い同位体組成を示し,中国よりは新しいものの東北日本では比較的古い地質が広がっている岩手県・福島県では中程度の値,比較的新しい地質を後背地に持つ宮城県では高い値を示した.これは当初の仮説通りの結果であり,ネオジム同位体比をもちいた由来判別が高い有用性をもつことを指示している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度の結果を受け,2017年度は貝類を用いて手法の確立を実施することに方針転換をしたが,これが非常にポジティブに作用した.得られた結果が非常に明瞭に解釈ができ,本研究課題の主目的であるネオジム同位体比を用いた生息域推定が非常に有用であるというデータが得られた.また,2016年度に開発した極微量ネオジムのハイスループット自動単離システムが順調に動作することが確認され,応用段階に重要となるハイスループット化に役立つことが期待できる.非常にチャレンジングな課題であったが,当初の作業仮説通りの結果が得られており,おおむね順調に進展していると言って良いと考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は,「ネオジム同位体比に種依存性が無いことの検証を大槌湾から採取された多様な生物の分析から明らかにする」,「クロマグロの脊椎骨のネオジム同位体比分析を実施し,産卵場が特定可能かどうかを検証する」「ニホンウナギの脊椎骨の分析から産地判別が可能かどうかを検証する」「クロマグロの放射性炭素の分析を実施し,回遊履歴の指標としての有用性を検証する」などの項目を実施する.
|
Causes of Carryover |
当初購入予定であった消耗品が想定よりも少なくて済んだ.次年度も消耗品が必要となるためそれに充当する.
|
Research Products
(20 results)