2017 Fiscal Year Research-status Report
Breakthrough design of unusual transition states in stereoselective glycosylations
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16KT0061
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
佐々木 要 東邦大学, 理学部, 准教授 (10611783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 英俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90200732)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | グリコシル化反応 / グリコシルカチオン / 立体配座 / 立体制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
ピラノースのグリコシル化反応は一般に,オキソカルベニウムイオン中間体を経て反応が進行する.この中間体では,6員環を形成する炭素-酸素間結合が二重結合であり,他の5本の炭素-炭素間結合よりも短い.したがって,出発物質である糖供与体の安定配座のまま存在することができない.言い換えると,グリコシル化反応には立体配座の変化が伴う. グリコシル化反応の出発物質をオキソカルベニウムイオン中間体が生じやすい形状にしておけば,中間体への遷移状態の活性化エネルギー低下に伴う反応性や立体選択性の向上を期待でき,また,中間体が生じにくい形状にしておけば,中間体への遷移状態の不安定化により,中間体を経ない反応が進行すると期待できる.これが本研究の仮説である. 29年度は,堅固に配座固定された出発物質を用いることで,オキソカルベニウムイオン中間体を経ない反応を実現し,マンノシル化反応において,独自の,かつ,非常に高度な立体制御の達成を報告し,本研究の仮説の正当性を示した.一方,30年度は,オキソカルベニウムイオン中間体が生じやすい形状にする方法として,反応が立体配座の変化を伴うことに着目し,配座を柔軟化することにより種々の立体配座を容易に取ることができる,すなわち,各立体配座間の遷移状態を低下させる方法を検討し,進展があった. 具体的には,グルコースに1,1'-(ethane-1,2-diyl)dibenzene-2,2'-bis(methylene)基(EDB基)架橋構造や,その類縁の架橋構造を付与することで,そのピラノース環の柔軟化が可能であることを示した.また,この柔軟化はグリコシル化反応に極めて有利に働き,反応性とα-立体選択性の双方を向上させることが明らかになった.さらに,架橋を用いなくてもピラノース環が柔軟化する例を発見した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に発見していたEDB基架橋によるグルコピラノース環の柔軟化効果には,二つの課題が存在した.すなわち,(1)EDB基以外の架橋基を用いても,同様の柔軟化効果があるのか.(2)架橋化しないで柔軟化できる方法はあるのか,の二点である.その後の研究で,(1)に関しては,EDB基以外に新たに3種類の架橋基を用いて,グルコピラノース環の柔軟性を評価し,架橋基の長さと立体配座の変化範囲の関係を明らかにすることができた.(2)に関しては,グルコースのヒドロキシ基を全て没食子酸エステルにした類縁体が柔軟化し,その酸化的アリールアリールカップリングを起こす時に,隣接しない没食子酸部分でカップリングし,その結果としてアキシアル配向した置換基がより多い立体配座の生成物を生じることが明らかになった. 一方,堅固な配座固定糖を用いたアプローチにおいても進展が見られた.オキソカルベニウムイオン中間体を経ない反応を目指し,デザイン,合成したマンヌロノ2,6-ラクトン糖を用いて高度な立体制御を達成してきたが,同様の配座固定糖から生成されるオキソカルベニウム中間体は不安定であり,当然ながら求電子的反応性が極めて大きいと考えられた.実際に,適切な条件下でマンヌロノ2,6-ラクトン糖からグリコシルカチオンを生成することが可能であり,その反応性を活用することで,通常グリコシル化されないような糖受容体をグリコシル化できることが明らかとなった.またその際,極めて高い立体選択性を実現した.さらに,その反応機構について,望まない立体異性体を与えるマイナーな副反応を2つ明らかにした.これらの知見は,反応性の低い糖受容体を広く,かつ立体選択的にグリコシル化できる,さらなる新反応の開発に繋がるだけでなく,グリコシル化反応一般の遷移状態の理解の一助となると期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
配座柔軟化糖に関しては,上記の(1)EDB基以外の架橋基を用いても,同様の柔軟化効果があるのかを明らかにする研究の際,EDB基を用いた場合より格段に効果的にα-立体選択性が発現するグリコシル化反応を発見した.今後,計算化学による各コンフォメーション間の遷移状態の考察を含めながら,架橋基の違いによる立体配座変動範囲の変化が,グリコシル化反応に及ぼす影響を,実験と理論の双方から検討することができる.また,発見した高α-立体選択的反応について,立体「選択性」ではなく,単に「α-グリコシル化反応」と表現するに相応しい反応へと発展させることを目的として検討する. 一方,配座固定糖に関しては,既報のオキソカルベニウム中間体を経ない反応から,30年度に端緒を見出した,中間体を経る反応へと展開する.一般に前者は糖受容体の求核力が十分大きくないと進行しない.つまり,多糖受容体を含む嵩高いアルコールのグルコシル化や固相合成のように反応基質の実効濃度が低い系でのグリコシル化で期待通りの立体選択性を得るのは困難である.一方で,後者が可能であれば,高活性なカチオン性中間体が,反応性に依らず広範な糖受容体をグリコシル化できると期待される.以上のことから,カチオン性中間体を経る立体選択的グリコシド結合形成反応の開発を行う. さらに,これらの知見を併せて,様々な立体配座から行われるグリコシル化反応とその立体選択性を精査することで,体系的にグリコシル化反応の遷移状態を議論する素地を固める.これにより,遷移状態における立体配座が立体選択性に与える効果をより網羅的に理解し,既往の反応を凌駕する反応を生み出すための基盤となる知見を得る.
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Causes of Carryover |
研究計画当初,28年度の購入予定であった計算化学用ワークステーションは,引き続き,研究協力者との連携先で計算を実施できる見通しとなったため,現時点では買い控えることとした.一方で,計画を超えて興味深い事実を見出したことから,その検討の推進のための30年度物品費および消耗品費が増大することが予想され,差額4,209,689円をそこに当てることとした.いずれも適切に研究を推進した結果であり,問題ない変更であると考えている.
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