2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520025
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中川 純男 Keio University, 文学部, 教授 (60116168)
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Keywords | 初期ストア派 / パトス / ガレノス / クリュシッポス |
Research Abstract |
ストア派におけるパトス論を主として考察した。パトス論は魂と身体との境界に生ずる問題であり、その起源はプラトンのいわゆる魂三部分説にさかのぼる。すなわち、魂には魂に固有な働きをするロゴス的部分の他に、身体と密接にかかわる欲望の部分があり、さらに両者の間にあってロゴス的部分の味方をし欲望と戦う気概の部分が区別されるという説明である。このプラトンの魂論に、アリストテレスは反対する。アリストテレスはロゴス的ではない魂の働きをすべてパトスと呼び、非ロゴス的とみなした。そこでパトスは、身体に由来する働きなのか、それとも魂に固有の働きなのかという問題が生じたと考えられる。このような問題はすでにアリストテレスに認めることができ、新プラトン主義のプロティノスにまで受け継がれていると考えられる。このような哲学史的文脈においてストア派の主張を検討するとき、ストア派はパトスにおける身体的変化と魂における現象との厳密な対応を主張したと考えられる。このことが、ストア派について唯物論的との批判がなされる遠因となったと考えられる。しかしながら、ストア派の意図は魂の現象を身体的変化に還元することではなく、あくまで両者の密接な対応を主張するものであり、このことについて初期ストア派のクリュシッポスがゼノンやクレアンテスと異なりパトスをロゴス的部分の働きに解消したと批判するガレノスの解釈は正しくないと考えられる。初期ストア派のパトス論についての主たる証言はガレノスの証言であるが、われわれはガレノスの証言から初期ストア派のパトス論を再現するにあたって、このようなガレノスの視点を考慮しなければならない。
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