2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520102
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
細川 周平 International Research Center for Japanese Studies, 研究部, 教授 (70183936)
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Keywords | 日本 / 近代化 / 大衆文化 / ジャズ |
Research Abstract |
本年度は引き続き、戦前のジャズ界について研究した。膨大な資料が出てきたため、戦後を含める当初案は断念した。本年の中心概念はいわゆるシンフォニック・ジャズ、つまり交響楽団の演奏を前提とした「作曲された」ジャズ曲で、最も有名なガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』の日本初演の状況を文書から再現した。当時はダンス雑誌が未刊行で、既存の洋楽雑誌でジャズは論じられた。そこではヨーロッパ音楽の現代的な派生型と考えられ、即興性、人種性は二次的な特質と見なされた。このようなジャズ観は1930年代半のスウィング期に、「黒人好き」の白人評論家によって改められ、現在の黒人中心主義が打ち立てられる。今日ではガーシュインやホワイトマンの「書かれたジャズ」を主流と見る考えは、奇妙ではあるが、この研究ではこの考え方の背後にある人種観、音楽観を明らかにし、それを直輸入した日本の受容について論証した。 『ラプソディ・イン・ブルー』を日本初演したのは、トーキー映画制作を行っていたスタジオの専属オーケストラ、コロナ・オーケストラで、その指揮者でアメリカ帰りの紙恭輔は「日本のグローフェ」と呼ばれ、シンフォニック・ジャズの普及に努めた。彼らはラジオでもたびたび演奏し、新しいメディアの間を行き来した。このようなメディアの地図のなかで、シンフォニック・ジャズはヨーロッパ音楽の聴取者層にも比較的容易に受け入れられた。即興に不慣れな演奏家にとっても、「書かれた」ジャズは練習曲として機能した。そこからやがて日米開戦直前の短いスウィング時代がやってきて、即興中心の演奏スタイルが生まれてくる。その意味で、シンフォニック・ジャズは過渡的なジャズ文化と考えられる。
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Research Products
(1 results)