Research Abstract |
平成18年度の研究では,「CASを活用した代数的活動をとらえる枠組みの構築に向けた基礎的研究」を継続的に進めるとともに,学習の質的深化を促す代数的活動について,中等学校段階の具体例と先行研究の分析から考察を進めた。 「CASを活用した代数的活動をとらえる枠組み」の考察において,本年度は特にKieran, Drijversらによるプロジェクト研究に焦点をあてた。KieranらはChevallardの教授学の考え,LagrangeによるCASを活用した数学学習の理論を基礎におきながら,「課題(Task)-理論(Theoy)-技術(Technique)」によるTTT理論を掲げる。TTT理論は,個人の学習における手続きと意味の関係,ユーザーにとって人工物に過ぎなかったものが「道具」と変容する過程,授業という場での課題や他者との出会いなど,CASを活用した数学授業や学習の諸要素を包括的にとらえる。Kieranらは,TTT理論をベースにおきながら,1次方程式の学習,x^n-1の因数分解の学習に焦点をあてた教授実験を行う。後者においては,紙と鉛筆で解くこととCASを活用してことを意図的に比較させ,学習者が自分の思考過程をふりかえる内省の活動を重視している。Kieran, Drijversらによるプロジェクト研究の枠組みと成果をふまえ,同様の教授実験を静岡県内の中学校(3年)や高等学校(1年)で行ったときに,どのような結果が生まれるかの考察を平成19年度に行う予定である。 学習の質的深化を促す代数的活動については,「洞察と新たな意味形成」をキーワードに,事例開発と関連する数学的活動論の考察を進めている。洞察とは,学習者が今まで学んだことを整理し,今までを活用して新たなことがらを探究する学習の相である。新たな意味形成は,学習者が新たに学んできたことの中に,今まで学んできたことを価値づける学習の相である。特に後者は「学び直し」による新たな見方・考え方,視点を創り出すことにつながる。例えば,その典型として乗法がある。 同数累加から導入された乗法が,アレイ図の活用や倍概念を育む数直線の活用をを通して乗法そのものの対象化が生じる。面積との関連づけによる「単位線分の長さ:線分の長さ」としての乗法の視覚化,作用としての乗法の見方,中学3年の無理数の学習における乗法の意味の変容への過程がある。
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