2020 Fiscal Year Annual Research Report
Research, Development and Systematic Implementations of Inclusive Disaster Risk Reduction
Project/Area Number |
17H00851
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
立木 茂雄 同志社大学, 社会学部, 教授 (90188269)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 翔輔 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (00614372)
菅野 拓 京都経済短期大学, 経営情報学科, 講師 (10736193)
田村 圭子 新潟大学, 危機管理本部, 教授 (20397524)
花田 昌宜 (花田昌宣) 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (30271456)
鈴木 進吾 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 災害過程研究部門, 主幹研究員 (30443568)
東 俊裕 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (30461619)
阿部 利江 東北福祉大学, 総合福祉学部, 助教 (30583091)
阿部 一彦 東北福祉大学, 総合福祉学部, 教授 (40151089)
井ノ口 宗成 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 准教授 (90509944)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | インクルーシブ防災 / 平時の福祉と災害時の対応の連結 / 災害時ケアプラン / 災害ケースマネジメント / 平時・災時全天候型の福祉 / インクルージョン・マネージャー / 防災リテラシー / 福祉の災害法制への制度化 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害時ケアプラン(DCP)(避難移動編)では、別府市の高卓越者へのインタビューをもとに、庁内外の部局・組織・団体に越境し、関係者を連結し、地域との恊働や当事者・家族の参画を推進・運営する「インクルージョン・マネジメント」の重要性を明らかにし、新SOPステップ1とした。また、1. ハザード、2.心身の状況、3.社会的孤立度の3つのパラメターを用いた、ハイリスク層の同定を新SOPステップ2とした。DCP避難生活編については、避難所ごとの合理的配慮提供に資する資源の総量を簡単に収集するアプリ改善のため、要配慮者対応に関する文献レビューをもとに、必須項目の理論的妥当性を検討した。 東日本大震災から10年目にあたる2021年3月には、宮城県名取市での5回目の被災者生活再建現況パネル調査を実施した。被災前から存在する社会属性や心身機能上の不平等と、被災後の「医・職・住・まち・つながり」ニーズの充足が生活復興感の上昇に寄与することを実証した。また生活再建困難層は、被災前から生活に困難をかかえる社会的弱者層であることも明らかにした。 障がい平等研修を踏まえ、インクルーシブ防災学の基本的視点の一つとして「障がいの社会モデル」を位置づけ、一般住民、防災ならびに福祉部局担当者、および福祉専門職向けのインクルーシブ防災の解説ブックレットを作成した。災害時ケアプラン、緊急・中期・長期災害ケースマネジメントの基本的なSOPが共通していることも、ブックレットならびに社会福祉専門職向け学術誌で総論解説を行った。 災害時ケアプランSOPの国際展開として2021年度より3年間の計画で、JICAエクアドル事務所およびJICAタイ事務所およびタイ・バンコクのアジア太平洋障害者センターを通じて、エクアドル共和国ならびにASEAN10カ国でのインクルーシブ防災研修カリキュラム開発ならびに研修を実装した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1-A)災害時ケアプラン(避難移動編)の標準業務手順(SOP)開発については、2020年度に新たに庁内外の実施関係者による実施体制の運営(新ステップ1)、支援計画作成の優先度の高いハイリスク層の同定(新ステップ2)を追加した。この新SOPは、2021年5月の災害対策基本法改正にともなう避難行動要支援者の取り組み指針に、標準的な手順として推奨されるとともに、ハイリスク層に対しては、この手順に沿って福祉専門職等も業務として参画し個別支援計画を作成することが全市区町村の努力義務として課せられることになった。 2-A)災害時ケアプラン(避難生活編)については、コロナ禍での避難所運営で災害救助法に加えて感染症法・コロナ対策特別措置法にもとづく資源が活用できるようになりSOPを拡張した。これを受け別府市の避難所運営マニュアルは大幅に改定された。 2-B)災害時ケアプラン作成のKPIの一つは、取り組みを通じて「要配慮者や家族自身の防災リテラシーが高まるか?」である。これを判定するための客観的な指標として、大規模サンプルを用いた標準防災リテラシー尺度を開発し、その信頼性・妥当性を確認した。 4-A)生活再建支援のための災害ケースマネジメント(CM)については、5 waveにわたる名取市生活再建現況パネル調査データをもとに、社会的弱者では被災前から存在する不平等がより大きく、より長期にわたって影響を受けることを確認した。これは、生活再建にむけた伴走型の災害CMの重要性を示す科学的根拠となった。さらに2016年度に実施した東北3県生活復興調査データの再分析から、単身高齢や高齢夫婦、障害のある人、失業者などが避難所に長期に滞留していたことを明らかにした。短期災害ケースマネジメントとして避難所から次の一時的避難・仮住まい場所への迅速な退出支援が必要であることを実証的に示唆する結果となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究事業を通じて、インクルーシブ防災を実現するための基本原則として、①生活の全体性(平時と災時の対応を連結する)、②平時と災時の連続性(被災前から生活困難を抱える層が被災後も長期にわたり生活再建に困難を抱える)、③衡平性(生活再建困難層には、合理的な配慮の傾斜配分を正義と見なす)、④恊働性(当事者や家族・地域住民・事業者・行政各部局が水平にスクラムを組む)、⑤レジリエンスの多元性(医・職・住ニーズの充足は「被災影響度」を緩和し、まち・つながりは「体験の主観的評価・意味づけ」を好転させる)を明らかにした。 本研究事業の一環として2020年度より、災害時ケアプランを一般施策化した兵庫県の事業評価を行ってきた。その結果、全41市町のうち計画通りに事業が達成できたのは4分の1程度に過ぎなかった。大多数の自治体は、福祉、保健・医療、防災といった部局がタテ割り・前例踏襲で業務を続けていた。この状況は、2021年5月に災害対策基本法が改正され、個別支援計画作成の努力義務化や、本研究事業成果が盛り込まれた取り組み指針の推奨手順の公開後も大きな変化はなかった。 大多数の自治事務にあっては、生活の連続性・全体性・衡平性が省みられず、当事者・家族・事業者・行政の公・共・私が重層的に恊働したスクラム型の推進体制や経営管理(インクルジョン・マネジメント)が実施されていなかった。 インクルーシブ防災を実現する5原則が実装できるための社会システムの条件とは何か?どのような方策が可能か?研究枠組みとしては、自治体を社会システムとしてとらえ、環境変数群・システム内変数群・インクルーシブ防災・行政パフォーマンス変数群を探索・渉猟して理論モデル化し、それをもとに概念化・操作尺度化を行い、全自治体を対象とした大規模社会調査による検証を踏まえて、有効な政策的に可変なパラメターを導出することが、求められる。
|
Research Products
(67 results)