2020 Fiscal Year Annual Research Report
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17H00980
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Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
西條 辰義 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 特任教授 (20205628)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小谷 浩示 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 教授 (80422583)
武田 裕之 大阪大学, 工学研究科, 講師 (00638512)
原 圭史郎 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30393036) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フューチャー・デザイン / 世代間持続可能性ジレンマ / 食の多様性 / PM2.5 / メタ認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
フィールド実験チームでは、さまざまなフィールド実験を開始している。一つ目はバングラデシュにおける食の多様性実験である。多様な食生活は人々を健康にする。フューチャー・デザイン(FD)を導入する場合とそうでない場合の実験を数ヶ月にわたって実施したところ、FDをしたほうの食の多様性指標が優位に上昇していることなどがわかり始めている。これに続いて、バングラデシュにおける室内における木材や糞を用いる煮炊きのために発生するPM2.5 の問題について、同様にFDを導入することで、室内におけるPM2.5のレベルの低下を観測している。このように、途上国におけるFDの導入で大きな投資をすることなく市民の quality of life の向上を支援し始めている。 ラボ実験チームの大きな発見は、二つある。現代人同士が利得を分け合うときには、平等に分けるということがよく知られた結果であるが、現代人と40年先の将来人と分け合うときには、両者の利得の和の最大化をめざすことがわかった。まだ、なぜそうするのかはこれからの課題である。もう一つは、持続可能性ジレンマゲームにおいて、複数の被験者が参加するのではなく、一人だけでイロコイ・メカニズム(将来の視点で今を考える仕組み)を用いるとしても十分効果があることを発見している。 実践チームは、仮想将来人になることの意味を問い始めている。岩手県矢巾町、京都府宇治市などのFD実践で、仮想将来人になった方々が、持続可能性に関わる問題を高い視点で鳥瞰し、従来の手法では出てこなかった独創的な提案をすることを観察している。そこで、仮想将来人になった方々にインタビューを行ったところ、「現代人としての私」と「仮想将来人としての私」を包み込み、両者を高い視点から鳥瞰する「私」を自然に作っていることがわかった。このようなメタ認知の機能を分析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナのため、しばらくは対面での実験や実践ができなくなったが、これを克服しつつある。実験については、インターネット上で実験を実施するシステムの開発がほぼ終わっている。実践についても、Zoomのブレイクアウト機能などを用いる実践のデザインが可能になり、これを用いた実践を用い始めている。 FDの実験については、ラボ実験から始まったが、「今」から「将来」を考えるのではなく、「将来」から「今」を考えるという手法がほぼ確立したといってよい。一方でも、ここ数年、新たにパースト・デザインを開発している。現代から将来にタイムスリップするのは容易ではないが、「今」から「過去」の出来事、意思決定になんらかのコメントやアドバイスを送ることはできる。この一連の手続きをパースト・デザインと名付け、さまざまな実験を実施しているが、パースト・デザインとフューチャー・デザインを組み合わせることでその相乗効果がかなり高いこともわかってきている。さらには、将来可能性(現在世代が自分の利益を差し置いても、将来世代の利益を優先するという可能性)を発揮する人の特性もわかり始めている。世代間連関性と批判的思考のスコアが高い人々が将来可能性を発揮しやすいのである。 これらを受けて、実践のデザインもかなり進化している。パースト・デザインとフューチャー・デザインをパッケジ化することで実践の効果が高まることを観察している。さらには、実践においては、新たなステージに入りつつある。新型コロナの影響もあるが、研究者はフューチャー・デザインのシステムを提供する役割を果たすのみで、現地にすらいかない手法をほぼ確立している。 フィールド実験は始めたばかりではあるが、こちらについても手応えを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
フューチャー・デザインでは、被験者を用いた実験、市民の実践が大きな役割を果たしてきたため、研究期間の後半に起こった新型コロナゆえに、研究費の繰り越しが常態化し、一時は足踏み状態になってしまったが、これをほぼ克服しつつある。 フューチャー・デザインを用いる実践では、さまざまな発見があった。たとえば、(A)仮想将来人を経験するとその効果が継続するのかどうか。(B)仮想将来人はなぜ独創的になるのか。(C)仮想将来人がなぜ社会的視点を獲得するのか。 これらは、実験室では簡単に観察できない発見であるが、なぜそうなるのかについて、今度は実験ラボでの検証をする予定である。 バングラデシュでは、幾つかのフィールド実験を実施しているが、新型コロナのもとでも、なんとかフィールド実験を実施するノウハウを蓄えつつある。今年度は、バングラデシュの人々にとって最も基本的なものである水に注目したい。WHO, JICAなどは1970~80年代にかけて、チューブ井戸を推奨した。雨水や川の水を飲むのは不健康であるのがその理由である。ところが、ヒマラヤ水系からの地下水には砒素が含まれることがわかり、現在、三千万人以上のバングラデシュの人々がWHO基準を満たさない水を飲んでいる。この問題の解決の一助としてフューチャー・デザインの効果を検証するフィールド実験を実施する予定である。 国内の実践では、宮崎県木城町や岡山県と連携を始めている。また、オランダ、フランス、イギリスなどの大学院生や研究者にフューチャー・デザインのノウハウを伝え、彼らが実験や実践を開始している。彼らのサポートもこれからの課題である。
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Research Products
(22 results)