2018 Fiscal Year Annual Research Report
固体表面における高感度スピン検出法の開発と遷移金属酸化物への応用
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17H01057
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Dino Wilson 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60379146)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピン / 偏極 / 金属酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,固体表面での水素原子および水素分子の散乱におけるスピン状態分布をレーザー分光法を用いて観測することで,水素と表面との相互作用の詳細を明らかにし,散乱におけるスピン緩和・回転機構を解明するとともに,固体表面のスピン状態解析を目指して研究を行っている.本年度は,水素分子線散乱装置について光脱離計測系の確立と脱離水素分子の計測,水素原子線散乱装置について6極磁石による収束計測,酸化物表面の水素吸着としてTiO2の理論解析とマグネタイトの吸着実験と理論解析を行った. 脱離レーザー光と共鳴イオン化レーザー光の遅延時間を制御することで,光脱離水素分子の回転状態を弁別した飛行時間スペクトルと脱離角度分布の測定を行った.飛行時間スペクトルに複数成分が存在することを見出し,また脱離角度分布が特定方向に指向性を持つことを見出した.これらを考慮して回転状態分布を解析し,理論計算の結果と比較検討した.アナターゼ型TiO2の水素吸着ついて,+Uを考慮した第一原理電子状態を行い実験結果の解析を行った.ルチル型TiO2と異なり,水素誘起電子状態は空間的に広がったLarge polaron状態を取ることを明らかにした.スピン状態としては1重項状態を取ると予想される.また,マグネタイト表面についても水素吸着による電子状態変化を測定し,電荷移動の詳細を明らかにするとともに,これまでにない新奇なスピン構造を持つ可能性を見出した.前年度に開発したチョッパー機構の動作を確認し,共鳴イオン化レーザーとの同期も実現し,水素原子線の飛行時間スペクトルの測定に成功した.最頻速度が2400m/sであることを明らかにしたが,これはドップラーシフトから予想された速度よりも早いことがわかった.ビームラインに6極磁石をセットし,水素原子線の収束を行い,速度ごとの収束度を計測した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水素分子散乱装置について,当初期待したように532nmの励起光で光脱離が生じることが確認され,高精度スピン転換実験の第一段階をクリアした.しかし,飛行時間スペクトルに複数成分の存在が確認され,さらに強い角度依存性を持つことが確認された.飛行時間や角度分布がスピン状態・回転状態に依存すると状態分布の不確定性につながるため,注意深い実験を行い,回転状態と飛行時間スペクトルに相関があることを明らかにした.この結果に基づき,吸着のスピン・回転状態解析を行ったところ,理論計算の結果と比較的一致することがわかった.前年度までに実験を行ったアナターゼ型TiO2については,+Uを考慮した第一原理電子状態計算により表面での全エネルギー計算およびそのときの水素誘起電子状態の解析を行った.バンドギャップを再現するUの値に対して,水素誘起電子状態はTiO2伝導体と共鳴した空間的に非局在化したLarge polaron状態であることを明らかにした.またマグネタイト表面への水素吸着実験と理論解析を行った.2種類の終端構造を準備し,その表面に水素を吸着させたところ,酸素を吸着させた表面で有意な電荷移動が認められ,理論計算により特異なスピン構造を持つことを提案した.水素原子線について,チョッパーの周波数を共鳴イオン化レーザーの周波数と同期させ,さらに遅延時間をパルス発生器で制御することで,飛行時間スペクトルの測定に成功した.スペクトルはシフトしたマックスウェルボルツマン分布でよくあらわされることがわかった.遅延時間を制御しながら6極磁石後のビーム収束径を測定し,スピン偏極度を80%と見積もった. 部分的には計画以上に進んだところもあるが,全体として計画通り順調に進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
水素分子線装置については,光脱離と分子線との同期により分子線による吸着時刻と脱離時刻の精密制御を行い,高精度スピン転換時間計測を実現する.この実験技術により,従来不可能であった早いスピン転換が生じる磁性体表面および分子状化学吸着状態でのスピン転換時間の高精度測定を行う.水素吸着量依存性,基板温度依存性を測定し,最近提案されている理論モデルの検証を行う.さらにルチル型およびアナターゼ型TiO2表面でのスピン転換時間を計測し,表面スピン密度の解析を行う.特にこれまで研究を行った水素誘起電子状態の実験・理論解析結果に基づき,電子の空間的局在度とスピン密度との相関を解明する.水素原子線について,6極磁石により収束された原子線のスピン偏極度をシュテルンゲルラッハ磁石で測定する.さらにシュテルンゲルラッハ磁石で分離したスピン状態をスクリーンに投影して検出するスピン観測装置の構築を行い,高感度・高速スピン状態計測に取り組む.水素分子線によるスピン転換実験を行うマグネタイト表面,TiO2表面について,水素原子散乱実験を行い,散乱によるスピンの緩和・回転の計測を行う.理論計算結果もあわせて,金属酸化物表面の電子・スピン状態を明らかにするとともに,表面でのスピン緩和機構の解明を行う.
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Research Products
(20 results)