2019 Fiscal Year Annual Research Report
地理空間情報を用いた近現代中国の都市・農村社会の実相復元と空間分析
Project/Area Number |
17H01644
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
片山 剛 大阪大学, 文学研究科, 招へい教授 (30145099)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 茂 大阪大学, 文学研究科, 名誉教授 (30087150)
佐藤 廉也 大阪大学, 文学研究科, 教授 (20293938)
田口 宏二朗 大阪大学, 文学研究科, 教授 (50362637)
稲田 清一 甲南大学, 文学部, 教授 (60221777)
大坪 慶之 三重大学, 教育学部, 准教授 (30573290)
山本 一 立命館大学, 文学部, 講師 (00748973)
波江 彰彦 関西学院大学, 教育学部, 准教授 (40573647)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 東洋史 / 地理空間情報 / 南京 / 不動産 / 日中戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
南京は、日中戦争初期の日本軍による爆撃等で多くの家屋が被害を受けた。そのため、日本占領下における家屋の需給状況如何は、都市問題として重要である。山本論文は、占領下南京において日本人用の住宅が不足していたこと、その一因として、土地・家屋所有者以外の者による新築・増築・改築の禁止が指摘されていることを明らかにした。これは、資力のある中国人が南京に戻らず、家屋の新築・増築・改築が進んでいないことを示唆する。また、日本の軍・官憲の関与なしに、日本人借主と中国人貸主とが直接に契約する「家屋貸借自由契約」も存在したことを明らかにした。 20世紀前半の南京を含む華中を対象に、さまざまな主体が収集・作製した地理空間情報についても成果を得た。小林・片山・山本論文は、現地で三角測量を行うことができない英国や日本の陸軍が、いかにして南京を対象とする大縮尺の地形図を作製したかを検討し、その元図として、清末に日本の技術者の指導を受けて中国が作製した近代的地形図を利用したことを明らかにした。 また片山論文は、日本の陸軍は華中・華南を対象に、1894~1900年のころから測量・地図作製を始めるだけでなく、1912年を嚆矢として兵要地誌の編纂も進め、地理・軍事情報を収集していったことを明らかにした。また兵要地誌の編纂は、1920年代末から地誌の枠組みを超え、南京攻略を目標に掲げ、攻略ルートや占領・軍政にも言及するようになり、それらの兵要地誌を読んだ野戦指揮官に南京攻略を意識させた可能性を推測した。 なお、「南京土地登記文書」所収の文書には、土地の「坐落」(所在地)や地籍図上の「区段」(地番)が不明なものが存在する。そこで、土地所有者名から「坐落」「区段」を推測できるツールを開発するべく、『南京市政府公報』所載の登記公告や「土地他項権利証明書存根」所載の情報をエクセルに整理する作業を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019・2020年度の主目標は、南京における一街路沿いの〈商店街〉の実相を描き出すことに置き、商店街として中華路を選択した。そのために必要な主要資料は「南京土地登記文書」である。 本文書を所蔵する台北の国史館は、2016年に申請・閲覧の規定を大きく変更した。特に個人情報を含む「南京土地登記文書」のような場合、閲覧申請から閲覧可能となるまでに6か月以上を要する。このため、2019年3月に中華路沿いの土地の登記文書を申請したが、国史館での1回目調査の2019年9月に閲覧できたのは申請件数の約2割で、残りは2020年3月の2回目調査まで待つ必要が生じた。 だが2020年3月調査は新型コロナウイルス感染拡大のため実施できず、繰越制度を利用して2020年度、さらに2021年度に実施しようとしたが、コロナ禍が収束せず、結局実施できなかった。そのため国史館調査用に繰り越した予算(旅費とデジタル画像複写費等)を執行する機会はなかった。 2019年9月調査で収集した登記文書と、1936年作製の地籍図、1929年・1944年撮影の米軍の空中写真とを比較対照し、中華路沿いの一筆々々の土地区画における土地・建物の状況について、①日中戦争前夜の状況、②1937年8月~12月の日中戦争初期における損壊・焚毀の有無、③その後の再建・修復の有無等を復元する作業を進めているが、収集済みの登記文書が少分量で事例数が少ないため、その成果を整理・公表するに至っていない。このため、2019年度の主目標とした課題はやや遅れている状況である。 なお、日本占領下の南京における家屋の需給状況や「敵産」の管理・利用について、また20世紀前半の南京ないし華中を対象に、さまざまな主体が収集・作製した地理空間情報についての調査研究は国内で調査研究できたので、それらの成果をニューズレターに論文として掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度(最終年度)の計画においても、台北の国史館で中華路を対象とする「南京土地登記文書」の調査を2回実施する予定であった。しかしコロナ禍が収束せず、2020年度のみならず、繰越制度を利用した2021年度も実施できず、さらに2022年度に繰り越すこととなった。 すなわち、2022年度が残された最後の一年である。また台湾もwith コロナの政策に転換しつつあるので、台北の国史館での調査も実現する可能性がある。そこで、2019年9月収集分に、2022年度に新たに収集する中華路沿いの登記文書を加え、これら登記文書と、1936年作製の地籍図、1929年・1944年撮影の米軍の空中写真とを比較対照し、1筆ごとの土地の形状・面積、建築物の有無、建築物の被害の有無や再建の有無の復元結果を公表する予定である。ただし、もし国史館調査が実現しない場合には、2019年9月収集分のみの復元結果を公表する。
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