2018 Fiscal Year Annual Research Report
Arsenic and its transformation of chemical form in the cycle of crust and hydrosphere
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17H01863
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中屋 晴恵 (益田晴恵) 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70183944)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三田村 宗樹 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00183632)
中村 英人 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任講師 (00785123)
奥平 敬元 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (20295679)
篠田 圭司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (40221296)
西川 禎一 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (60183539)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マグマ性流体 / ヒ素含有有機物 / 付加体堆積物 / 続成作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年3月に室戸岬周辺の四万十帯で採取したハンレイ岩と付加体堆積物中のヒ素濃度を分析中である。濃度は5~20ppm程度の範囲にあるものが多い。四万十帯ではハンレイ岩中の濃度は低く、泥岩中で濃度が高い傾向が明らかである。また、石英脈を含む砂岩などでも濃度は低いことから、マグマにヒ素があったとしても、周囲へ移動したと推定される。また、マグマ活動に伴って直接放出されるヒ素を観察するために、2018年4月に水蒸気噴火が発生した霧島連山・硫黄山で2018年7・10・12月と2019年3月に熱水を採取した。7月と10月にはほぼ純粋なマグマ水(高温のマグマと反応した履歴を持つ熱水)が得られた。ヒ素濃度はpHが1よりも小さい酸性熱水中で最大5ppm程度あり、硫酸イオン濃度と明瞭な正の直線関係を持つ。このことから、マグマ中のヒ素はイオウと密接に関係して挙動することが示唆された。今後、溶存態ヒ素の形態分析を行う予定で準備を進めている。 2018年12月にはインド・ヒマラヤのガンジス川最上流と源流域で河床堆積物・堆積物の源岩と推定される岩石・河川水を採取した。現在、分析を進めている。 南海トラフの海底面直下から2200mまでの深度の深海底堆積物のヒ素に関する分析結果は論文として公表した。ヒ素の多くは陸源砕屑物に由来するが、堆積物最上部では藻類に濃縮しているヒ素が有機物の分解に伴って間隙水中に溶出すること、メタンハイドレート層では微生物によるヒ素の代謝によりヒ素含有有機物(モノメチルアルソン酸、アルセノベタイン)の形成が起こっている可能性を指摘した。また、プレートテクトニクスに伴うヒ素の挙動に関してこれまでの知見を総説として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、フィリピン海プレート収束域でのヒ素の地質学的循環を明らかにすることを目的として沈み込み帯・付加体の堆積物・堆積岩と、マグマ中でのヒ素の挙動を化学形態の追跡を行なっている。現在までに、現世の付加体堆積物である南海トラフの深海底堆積物の海底下2200mまでの深度のヒ素の挙動と、それに関与する生物化学作用を明らかにした。このような高深度の海底堆積物の鉛直方向でのヒ素の挙動を追跡した研究は世界に類がない。南海トラフより古い時代の付加体である四万十帯とそれが低温・高圧の変成作用を受けた三波川帯の堆積岩・片岩の分析は進行中であるが、概ね予定通り進んでいる。 また、世界最大のヒ素汚染地帯であるガンジスデルタの源流域であるネパールとインドのヒマラヤ山脈の河床堆積物・岩石の採取は2度の調査によりほぼ達成できた。分析を開始しており、今年度前半には結果が出る予定である。 ヒ素の一時供給源となるマグマ活動との関連に関して、昨年度は薩摩硫黄島・山川温泉・霧島温泉などで調査を行なった。しかし、2018年4月に霧島連山・硫黄山で水蒸気噴火が起こり、ヒ素を高濃度に含む熱水が噴出したことから、この地域で熱水の化学組成に関する継続的調査を行なっている。純粋なマグマ水と判断できる熱水から高濃度のヒ素を検出しており、他の水質との関連からヒ素のマグマ性流体中での挙動を検討しているところである。 以上のように、研究は概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
分析が進行中である四万十帯の堆積岩中のヒ素(総ヒ素・有機態ヒ素)、ヒマラヤとガンジス川源流域での岩石と河床堆積物中のヒ素の濃度分布と河川移動過程における化学態の変化についての検討を取り急ぎ進める。 また、2019年2~3月に南海トラフで掘削した深海底堆積物試料について、間隙水と堆積物中でのヒ素の形態変化を追跡する。間隙水については、HPLC-ICPMSを用いて分析を行う。さらに、マグマ流体中でのヒ素の化学形態を明らかにするために、霧島連山・硫黄山での噴気の採取と分析を5月以降行うことで準備を進めている。 今年度が最終年度であることから、年度の後半からは積極的に結果の取りまとめと論文化を進める予定である。
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