2018 Fiscal Year Annual Research Report
完全な再生可能資源化を目指したリグニンからポリアセニックファイバーへの展開技術
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17H01904
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
森 勝伸 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (70400786)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾崎 純一 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30214125)
板橋 英之 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40232384)
石井 孝文 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (50750155)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 木質バイオマス / ファイバー / 金属触媒 / 熱処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球上で芳香族を最も多く含むリグニンは,生物有機資源、高分子物質のバイオマス原料として期待されている。本研究では,リグニンに金属イオン(Fe(II),Co(II)等)を担持させ,不活性雰囲気下(アルゴン,水素等)での熱処理によって芳香族が直線状に配列したポリアセニックファイバー(PAF)を生成し,高分子複合材料の補強材料(フィラー)として提供する。ここでは,1)リグニンに担持する金属イオンをPAF生成の触媒として機能させること,2)長さマイクロメートルのフィラーを創出し,副生成物を排出しないこと,3)PAFの構造・物性,熱可塑性樹脂と混合したときの強度が従来(化石資源由来)のフィラーと同等であることを実証し,最終的に複合材料の主原料だけでなくフィラーもバイオマスとする完全な再生可能資源化に繋げることを目指す。 30年度では,森,板橋の研究グループでは,アンモニア処理を行ったリグニンは処理を行っていないものと比べ、重金属吸着量が約10倍向上していることがわかり、この結果がアルゴン雰囲気下で1000℃の熱処理によって得られたカーボンの生成効率の向上につながることを示唆した。また、金属触媒として用いたFe(II)及びCo(II)の化学形態をX線回折で調べた結果、アルゴン雰囲気下で焼成した後のPAF内の鉄及びコバルトは酸化物態として存在していることを突き止めた。一方,尾崎,石井の研究グループでは金属を担持したリグニンの熱処理及び物性解析を実施した。その結果,溶解させたリグニンに安定に吸着する金属がFeとCoであることが分り,金属を担持したリグニンを熱処理した後の構造解析においてもFeとCoが炭素化過程に強い影響を与えることが分った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
森,板橋のグループでは,昨年度の研究を継続し,カーボン材料の原料である金属担持リグニンの物性解析と熱処理後に見られる構造変化との関係を検討した。今年度は、リグニンの種類を疎水性のリグニンとアルカリ(炭酸ナトリウム塩)によって処理した親水性のリグニンの2種類に絞りこんで上記検討を進めた。また、新たな試みとして、共同研究者の助言により、リグニンに内在するアルカリ金属イオンをアンモニアによって脱離し、リグニンへの重金属イオン(Fe(II)とCo(II))の担持量を増やすことで、高効率なカーボン生成を試みた。その結果、アンモニア処理を行ったリグニンは処理を行っていないものと比べ、重金属吸着量が約10倍向上していることがわかった。ただし、この結果がアルゴン雰囲気下で1000℃の熱処理によって得られたカーボンの生成効率の向上につながっているか判断することは現段階では難しく、光学顕微鏡の他にX線回折装置、ラマン分光光度計、透過型電子顕微鏡などを駆使して解明していく。 石井,尾崎のグループでは,森グループで調製した金属担持リグニンを熱処理し、熱重量(TG)分析を行い,金属種がリグニンの熱分解,炭素化過程へ与える影響を調査した結果,FeとCoは触媒炭素化に起因する高温側ピークを増大させることが分かった。金属の触媒作用によってPAFを得るという本研究の目的を踏まえ,TG分析の結果より,リグニンに担持する金属種にはFeとCoが最適であると考えられる。 以上,30年度に実施計画に計画と照合して,廃材からリグニンを抽出する試験は来年度に持ち越されることになったが,上述のように新たな試みも多く実施され,リグニンの再資源化に資する知見は飛躍的に増加したことから,おおむね計画通りに実施されたものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、リグニンの再資源化に資する複合材料への変換だけでなく、天然材料を液相内で金属イオンと反応させ高温熱処理で一気にカーボンに生成させる方法と発想は、これまでほとんど報告されなかった技術であった。そこで,森らは,2018年4月から高知大知財部と共同で特許の出願準備を進めていたが,結果的に企業からの支援が得られず,本学の出願費用も限られることから今回は断念することなった。これより,今年度は国際学術誌への投稿し,国内外の学会発表など外部に発信するため,【現在までの進捗状況】で得られた課題克服と今年度の研究計画を遂行する。 その他に,今年度,森,板橋グループでは,1)リグニンへの重金属吸着量とカーボンの生成効率との定量的関係、2)サイズ排除/分配クロマトグラフィーを駆使した副生成物の分析を、石井、尾崎グループでは、1)PAF生成の熱処理条件の最適化、2)CNT等との物性・強度の比較、3)熱可塑性樹脂にPAFを混錬したときの機械的強度試験を実施する。 以上より、得られた試料はリグニンの熱処理を行い単層シートのPAF生成を実現する方法を見出し,炭素化工学への新しい知見を与える。
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Research Products
(13 results)