2018 Fiscal Year Annual Research Report
The role of mini-publics in global and ultra long-term risk governance
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17H01927
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三上 直之 北海道大学, 高等教育推進機構, 准教授 (00422014)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 絵香 大阪大学, COデザインセンター, 准教授 (30420425)
江守 正多 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 副研究センター長 (80300846)
田村 哲樹 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (30313985)
松浦 正浩 明治大学, ガバナンス研究科, 専任教授 (70456101)
池辺 靖 国立研究開発法人科学技術振興機構, 日本科学未来館, 科学コミュニケーション専門主任 (50791828)
工藤 充 大阪大学, COデザインセンター, 特任講師(常勤) (10775886)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 合意形成 / 市民参加 / 科学技術社会論 / 熟議民主主義論 / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,無作為抽出などによって社会の縮図をつくり,そこでの議論の結果を政策決定などに活用するミニ・パブリックスの方法が,地球規模かつ超長期の複合リスクのガバナンスにおいて果たしうる役割を考察することである。科学技術社会論と政治学を基盤とした理論研究,社会実験などを通じた実証研究,ミニ・パブリックスの運用指針などを含む政策提言の3つを柱として研究を進めている。 2年度目となる今年度は,実証研究の一環として,気候変動問題に関する模擬的なミニ・パブリックスの企画・設計を進め,2019年3月に札幌市において「脱炭素社会への転換と生活の質に関する市民パネル」として実施した。この社会実験の実施に先立って,2018年6月には札幌市内で公開研究会「無作為抽出型の市民参加の可能性ー地球規模リスクの問題への応用を考えるー」を行い,気候変動対策に取り組む地元関係者などと意見交換するとともに,研究チーム内でもSkype等も用いて約10回にわたる設計ミーティングを重ねた。こうした検討の結果,手法としては市民陪審方式を用い,札幌市および周辺市町村(人口約250万人)の縮図となるよう,同地域の18歳以上の一般市民から18名(男女9名ずつ)の参加者を抽出することとした。当日はこの参加者が,7名の専門家に対するヒアリングを行いつつ,3つの論点をめぐって約15時間かけて議論し,脱炭素社会への転換が生活の質に及ぼす影響について全員の合意で結論を導くことができた(結果の速報は「脱炭素社会への転換と生活の質に関する市民パネル 政策担当者のための報告書」 http://hdl.handle.net/2115/73624 を参照)。 この社会実験と並行して,各メンバーが研究課題に沿った理論研究,実証研究を進め,その成果の一部を学術誌や学会等で発表するとともに,社会教育施設や団体の研修の講師として社会還元した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,本研究の要となるミニ・パブリックスの社会実験を研究チーム全体で実施することができた。模擬的な市民陪審を通じて導かれた参加者の結論においては(1)気候変動は将来世代の生存権さえ侵害しかねない重大な問題だと認識していること,(2)パリ協定の実質排出ゼロ目標は,取り組み方次第で達成できる可能性はあるが,実現のハードルは非常に高いと認識していること,他方で(3)脱炭素社会への転換は必ずしも生活の質に対する脅威となるわけではなく,生活の質を向上させる機会ともなりうること,などが主張された。この結論や,そこに至るプロセスは,異なる意見を有する一般の人々がバランスのとれた情報提供を受けて互いに議論することにより,気候変動問題に対する理解が深まることや,将来にわたる転換を新たなチャンスとして捉えるような意見が形成される可能性を示している。今後,社会実験を通じて得られたデータ(参加者に対する質問票調査の結果や,議論のトランスクリプト等)を詳細に分析することにより,脱炭素社会への長期的転換をめぐる社会的議論を喚起する方法としてミニ・パブリックスが有する可能性や課題を,詳しく考察できるものと考えている。 この社会実験以外にも,各メンバーによる理論研究,実証研究等と,その成果の発表も着実に進展してきている。以上の進捗状況に基づいて,研究は全体としておおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる来年度は,次の通り研究を進める。 まず,今年度実施した「脱炭素社会への転換と生活の質に関する市民パネル」において収集したデータを用い,議論過程の詳しい分析を行う。この分析は,本研究を発展させる形で研究代表者らが来年度以降実施することとなっている国際共同研究「脱炭素社会への転換と民主主義の革新・深化との統合的実現に関する国際比較研究」(JP18KK0318)へスムーズに接続できるよう,国際比較の観点も意識して行う。なお,分析の過程では,必要に応じて補完的な社会実験や調査等を企画・実施する。 また,上記の分析や,初年度から研究会等において積み重ねてきた議論を踏まえ,気候変動問題を始めとする地球規模かつ超長期のリスクのガバナンスにおけるミニ・パブリックスの役割について,さらに考察を進める。研究全体を通じて見出された知見を総括しつつ,そこから得られる政策的含意(ミニ・パブリックス活用の指針を含む)についても検討する。 以上の共同作業を促進するため,研究代表者・分担者および連携研究者が一堂に会する研究会を3回程度行う。その他,データ分析や考察等のための研究打ち合わせやワークショップを,Skype等も活用しながら随時実施する。研究成果は,関連分野の国内・国際学会において報告するとともに,報告書,論文等の形で出版する。
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Research Products
(19 results)