2017 Fiscal Year Annual Research Report
EUにおける難民の社会統合モデル―ドイツ・ハレ市の先進的試みの可能性と課題―
Project/Area Number |
17H02227
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 雪野 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (40226014)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 真作 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (20298748)
寺本 成彦 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (30252555)
大河原 知樹 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (60374980)
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヨーロッパ / 難民 / 社会統合 / 共生社会 / EU / ネットワーク化 / 移民 / NPO |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年夏以降、未曽有の難民がEU域内を目指すなか、連邦政府が受け入れを表明したドイツ国内、特に旧東独地域の反難民・反移民の動向が注目されている。しかし、同地域にあるハレ市では難民の社会統合を目指した積極的施策が打ち出され、市当局、大学、初等・中等学校、宗教団体、NPO等を横断する支援体制の構築が進み、周辺自治体のモデルとなりつつある。ここでは、他の自治体で見られる大規模な反難民・反移民の示威行動は現在まで行われていない。 2017年8月~9月に、ハレ大学第一哲学部オリエント研究所、第三哲学部教員養成センターおよび国際交流センターと連携し、研究協力者の支援を受けつつ、移民・難民の再教育プロジェクトLOOP、移民・難民統合のためのNPOであるWelcome-Treff、援助団体House of Ressources及びザクセン・アンハルト州の教育庁、2つの学校などを訪問し、施設見学のほか、関係者や利用者と面談した。これにより、ハレ市が受け入れた難民の生活実態、難民支援を中心とするハレ市の移民社会統合ネットワークの組織と機能、各所属団体の活動との関係、教育・就労状況の実態が把握できた。ハレ市内で活動する諸団体がそれぞれ密接にネットワーク化されていることが確認された。このNPOと行政のネットワーク化は今後の移民・難民統合の核となる考え方であると思われる。 比較の対象となる旧東独地域の他自治体に関しては、ハレ市の調査に付随してライプツィヒでの現地調査を行った他は、文献調査を実施した。周辺諸国(チェコおよびフランス)については、文献調査のほか、2018年2月にフランスのエクスにおける難民受け入れに関してボランティア団体中心に実地調査を行った。 以上を踏まえ、関連の公開研究会を研究分担者を講師として11月に実施した。その他、研究代表者や研究分担者は、様々な場で関連の報告、執筆活動を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、当初の計画通り、2017年8月~9月に、ハレ大学第一哲学部オリエント研究所、第三哲学部教員養成センターおよび国際交流センターと連携し、研究協力者の支援と助言を受け、ハレ市の実地調査を行った。移民・難民の再教育プロジェクトLOOP、移民・難民統合のためのNPOであるWelcome-Treff、援助団体House of Ressources及びザクセン・アンハルト州の教育庁、2つの学校を訪問し、施設見学のほか、関係者や利用者と面談したことにより、ハレ市が受け入れた難民の生活実態について、難民支援に従事するハレ市の移民社会統合ネットワークの組織と機能やネットワーク所属団体の活動との関係について、初等・中等教育、高等教育、成人教育、就業に関わる施策について明らかにすることができた。調査日程とイスラム教の祭日との関係からモスクでの調査はできなかったが、それ以外の調査は非常に実りの多いものであった。また、現地調査では、ハレ市以外の旧東独都市であるライプツィヒのNPOの活動視察や、フランスのエクスでのNPO等の活動調査やヒアリングも実施できた。 文献調査では、ハレ市の属するドイツ、比較対象として挙げたフランスとチェコの難民・移民の現状と課題、日本における難民・移民の現状と課題、さらに直接の研究対象以外のヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国などの難民・移民の現状と課題について文献資料を収集し、検討することができた。 予定通り、公開研究会「ドイツにおける移民の統合と新たな課題」を11月に開催した。また、その他の学会や研究会などの場において、関連の報告を行い、論文等の執筆活動により、研究状況及び成果を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、以下の3項目に重点をおき、ハレ市での現地調査を実施し、調査結果を分析するが、なかでも本年度の調査に不足のあった3)と宗教施設関連の調査に格別に配慮する。1) ハレ市が受け入れた難民の生活実態について、追跡調査を行い、検証の基盤を固める。受け入れから定住までの過程を把握する。2) 難民支援に焦点を絞り、ハレ市の移民社会統合ネットワークの組織と機能、各所属団体の活動との関係等を検証する。主にa) 教育分野の施策(初等・中等教育、高等教育、成人教育)、b) 就業に関わる施策(就業状況、就業支援体制、(再)教育)、c) 信教の自由(モスク等宗教施設や団体の状況、難民が帰依する宗教団体と市や他の諸機関との連携等)に関わる施策に着目し、調査する。3) ハレ市在住のイスラム圏の背景を持つ人々の集団内部の多様性と彼らの社会統合の状況との関連性を確認する。出身地や宗派、難民と移民という法的立場等の相違に注目する。 同時に以下の2項目の調査・分析も行う。4) 旧東独地域の他自治体における難民の受け入れ状況及び支援体制、排外主義に関わる情勢等について調査する。5) ドイツと異なる政策を打ち出している周辺諸国(チェコおよびフランス)における難民受け入れ政策と受け入れの実態について調査する。実地調査をまだ行っていないチェコにおいてもなるべく早い時期に実地調査を行う。 これらの調査・分析結果を踏まえ、ハレ市で展開されている諸施策が難民の社会統合にどのような成果をもたらしたか、もたらす可能性があるか、他方で、社会統合のためにさらに克服すべき問題があるか等について考察する。以上の成果及び文献資料研究の成果を国際シンポジウムや公開研究会などで発信し、その際、現在の日本における難民および外国人労働者受け入れ政策や施策の実施者と意見交換し、日本の難民受け入れ政策に対する提言の準備を行う。
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