2018 Fiscal Year Annual Research Report
EUにおける難民の社会統合モデル―ドイツ・ハレ市の先進的試みの可能性と課題―
Project/Area Number |
17H02227
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 雪野 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (40226014)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 真作 東北学院大学, 経済学部, 教授 (20298748)
寺本 成彦 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (30252555)
大河原 知樹 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60374980)
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 難民 / 移民 / 統合 / EU / ムスリム / 共生保育 / 職業教育 / NPO |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度のハレの現地調査は10月に実施した。定点観測中のカシュターニエン大通り中等学校での聴き取りと授業参観、フリーゼン基礎学校での聴き取りのほか、職業訓練校での聴き取りと授業参観、大学での課外活動としての語学交換授業の参観、難民支援NPO関係者からの聴き取り、モスクの礼拝見学と関係者との意見交換などを行うことができた。礼拝参加者は非常に多く、モスクの収容人数をはるかに超えており、新規移転や増設を考えなければならないであろう。また、難民出身者が自営業として成功を収めつつある様子も見られた。ザクセン=アンハルト州の教育予算の削減や教員不足により、学校教育現場は困難に直面しているが、市による財政補てんや現場の努力により、何とか成果が得られているようだった。中等学校、職業訓練校と年齢が上がるにつれ、統合が困難になっていく実情も参観からうかがえた。 本年度は、小規模の公開研究会に加えて、計画の中間年のまとめとして、年度末に近い2月に仙台で研究協力者であるハレ大学教員養成センターのトーマス・ブレナー所長とペーター・グリュットナー氏、同大学オリエント研究所(元)のシュテファン・クノスト氏を招いて、国際シンポジウム「ドイツ・ハレ市における難民・移民の社会統合―ヒューマン・セキュリティのために教育ができること―」を開催することができ、高校生から高齢者に到る幅広い年齢層の市民や、研究者に研究成果の情報発信することができた。理論と実践について動画も駆使したわかりやすい報告は、参加者からの好評を得た。 先方学会の都合により開催時期が次年度6月に延期された日本ドイツ学会でのフォーラム「ドイツ・ハレ市における移民難民の社会統合―フィールドワーク中間報告―」には、研究代表者と2人の分担者が登壇し、専門家を含む多くの出席者を得、貴重な意見交換の場となった。 前年度までの調査結果は論文として公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前項のとおり、ハレにおける定点観測的な現地調査は順調に進んでいる。昨年度と現地調査の時期が若干ずれたため、大学の学生による統合への取り組みや職業訓練校の現状をも把握することができた。定点観測中の教育現場では、政局の影響を受けた予算の削減の影響など定点観測によってのみ知ることのできる問題が明らかになった。 本年度は、小規模の公開研究会のほか、日本ドイツ学会でのフォーラム開催、当初から計画していた中間年のまとめとしての国際シンポジウムを開くことができた。日本ドイツ学会でのフォーラム「ドイツ・ハレ市における移民難民の社会統合―フィールドワーク中間報告―」は、先方の都合で、会期がずれ、翌年度の6月開催となったが、3つのフォーラムが並行して開催されていたのにもかかわらず、多くの出席者を得て、専門家との意見交換により、今後の研究課題の遂行にも益する情報を得た。また、開催時期を延期したため、フォーラムでの報告には本年度の調査結果も含めることができた。 この研究課題の実施以前から、研究協力をお願いしているハレ大学教員養成センターのトーマス・ブレナー所長(「多様性の文化?」)とペーター・グリュットナー氏(「難民・移民、地方自治体、教育」)、同大学オリエント研究所(元)のシュテファン・クノスト氏(「2015年の難民・移民動向とハレ大学」)を、国際シンポジウム「ドイツ・ハレ市における難民・移民の社会統合―ヒューマン・セキュリティのために教育ができること―」に招くことができたことは大きな成果といえよう。思いがけず幅広い年齢層の市民の参加を得ることができ、この問題に関する一般的な関心の大きさがうかがえた。 研究代表者、各研究分担者は、それぞれ、単著、共著で前年度までの調査結果を論文等の形でも公表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究計画の後半に入るが、これまでのハレ市での定点観測的な現地調査に加え、これまで文献調査のみしか行ってこなかった、EU旧社会内の旧社会主義国で、難民割り当てには反対のチェコでの現地調査も実施したい。チェコでは、まだ自治体レベルでの難民・移民統合政策が進んでいるとはいえないので、国の受け入れ方針や政策を知るため、カレル大学(プラハ)の専門研究者や外務省の実務担当者、難民支援団体などの聴き取り調査を実施したい。 ハレでの定点観測的な現地調査においては、定点観測中の学校訪問のほか、ハレの属するザクセン=アンハルト州の州レベルでの政策を確認するための州都マグデブルクでの調査、昨年はハレ市行政の聴き取りが手薄だったので、その追加調査、学童保育や就学前教育における統合の現状調査、ムスリム住民については、ハレに近いザクセン州のライプツィヒでの調査も実施したい。現地調査の調査項目とその内容は、研究遂行の過程や、現地情勢の変更により、臨機応変に検討したい。 また、本課題の研究報告としての多言語出版について、ハレ大学の研究協力者と詳細に検討する予定である。出版形態(印刷かオンラインか)、どの言語で出版するか(最大で英独日の3か国語)、翻訳の方法・費用など議論すべき点が多い。 最終年度には、年度後半に再度国際シンポジウムの開催を計画しているため、その招聘予定者との交渉も次年度必要なことである。ハレ市の行政から移民統合専門官事務所の関係者、学校教育の場から教員など、中間年度のシンポジウムの報告者が研究者であったのに対し、最終年度の報告者としては、現地の実務家に登壇していただきたい。それにより、出席者も行政・教育実務家が増え、実りある意見交換ができることを期待している。 研究代表者、各研究分担者は、これまで通り積極的に論文や口頭発表の機会を確保していきたい。
|