2019 Fiscal Year Annual Research Report
EUにおける難民の社会統合モデル―ドイツ・ハレ市の先進的試みの可能性と課題―
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17H02227
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 雪野 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (40226014)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 真作 東北学院大学, 経済学部, 教授 (20298748)
寺本 成彦 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (30252555)
大河原 知樹 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60374980)
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 難民 / 移民 / 統合 / EU / ムスリム / ユダヤ教徒 / 学童保育 / NPO |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の繰り越し事業として行った6月の日本ドイツ学会でのフォーラムをはさみ、本年度の調査前調査後の打ち合わせ研究会を3回実施し、フォーラムや現地調査参加者以外の研究分担者との情報共有を密に行い、11月に、初めてチェコ・プラハでの現地調査を実施した。チェコをはじめとする中欧の4か国(ハンガリー、スロヴァキア、ポーランド)は、EUの難民割り当てに対する抵抗勢力として知られているが、難民危機以前から、公的機関ではなく、NPOも難民・移民問題に取り組んでいることが確認できた。しかしながら、難民・移民問題は国民的課題とはみなされず、最近の研究関心は、むしろチェコから流出する移民に向けられている。 同月にドイツ・ハレでの定点観測とハレの属するザクセン=アンハルト州の州都マグデブルク、ハレに近いザクセン州のライプツィヒでの調査も実施した。ハレ市の移民統合専門官からハレ市のネットワークの現状と政局の影響の聴き取り、定点観測中のカシュターニエン大通り中等学校の現状に関する聴き取りとドイツ語クラスの参観、難民・移民児童の教育に効果を上げているとされる学童保育の参観、NPO運営の市民と移民の交流の場ウェルカム・トレフの見学、ハレとライプツィヒのモスクの見学と聴き取り、マグデブルクの州労働社会省の統合担当官の聴き取りと外国系園児の多いこども園の参観を行った。ハレ市のみならず、ザクセン=アンハルト州全体としても移民・難民統合に向けて行政が積極的な政策を打ち立て、州としての独自性を保っていることが分かった。 このように統合政策が順調とみられているハレ市であるが、現地調査直前に市外の犯人によるシナゴーグ襲撃事件が起こった。そのため、ハレ市のユダヤ人の歴史、最近のロシアからのユダヤ系移民の流入などについても追加的に調査した。市民の難民・移民統合への意欲、反人種差別主義の姿勢はむしろ高まったようである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、定点観測中のハレで、これまでの正規学校、行政、NPO、モスクに加えて、学童保育やユダヤ教・シナゴーグ関係の調査も行うことができた。そこでは、財政上の問題を抱えながらも難民・移民統合のための前進しようとする官民の現状が明らかになった。ハレ市やザクセン=アンハルト州の政治状況は、年々変動しているが、今のところ、難民・移民政策の方向性に変わりがないことが明らかになったのは、定点観測の賜物である。 また、これまでは、比較の対象としてのチェコについては、文献分析のみに頼ってきたが、本年度、現地調査を行うことで、移民・難民研究者による同国の現状の情報のみならず本研究課題への助言を受けることもできた。また、外務省の担当者からの聴き取りも実現した。 ドイツでの調査においても、ザクセン=アンハルト州の州都マグデブルクでの聞き取り調査とこども園参観が実現したことにより、同州内でのハレ市の独自性と、州としての政策の独自性が明らかになった。また、ザクセン=アンハルト州のドイツ国内での立場も明確になった。ハレ市内の調査においては、学童保育の参観やユダヤ教関係の史跡の見学など、これまでと異なる視点も加えることができた。学童保育は、公教育と連携しつつも別の運営であり、ユダヤ教関係は、この研究課題遂行の最初から注目してきたムスリム難民との対比の上でも、注目すべき視点といえよう。シナゴーグ襲撃事件という不幸な事件が起こったことは、ハレ市の多文化性には悪影響を与えず、現地調査にも支障はなかった。 本年度は、この研究課題としての公開研究会は実施しなかったが、研究組織内の研究会はこれまで以上に活発に実施できた。また、前年度までの調査結果を中心に日本イスラム協会での講演や、論文執筆・刊行などで、研究成果の公表も行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年度となる。本年度末からの世界のコロナ・ウィルス問題により、定点観測の最終年度に当たる現地調査と最終年度の国際シンポジウムを計画している本研究課題の遂行は困難なものとなる可能性がある。まず、本来の計画通り研究が遂行できる場合を記す。 9月ごろにハレ市を中心に現地調査を行う。対象は、定点観測中の学校、行政、NPO、行政とNPOを結ぶネットワーク、モスク、そして新たにユダヤ教団である。NPOについては初年度訪問したハウス・オブ・リソースなどのプロジェクトが満期を迎えているため、その後の状況を確認する。また、ハレ市以外、ザクセン=アンハルト州以外(ベルリンの援助関係組織と本年度日本で接触することができた)の状況も調査する予定である。更に、ハレ大学の研究協力者とは、この課題後の新たな研究協力体制に関しても検討する。 11月ごろにハレ市の市議会議員、教員を招き、国際シンポジウムを開催する予定である。昨年度のシンポジウムでは、ハレ大学の研究者を招聘したが、次年度は実務家の招聘を考えている。また、チェコ外務省の(元)難民担当者、日本の難民支援NPOの広報関係者の講演も計画している。 この研究課題に関連する成果報告として、ハレ大学の研究協力者と計画中の多言語の論集(英・独・日)のオンライン出版のため、執筆活動を行う。 以上の方策は、今後のコロナ・ウィルス問題の状況によっては、執筆活動以外は実施困難になることも考えられる。その場合、現地調査は、メールによるインタビューやテレビ会議システムなどによるインタビューに変更せざるを得ないが、現場での聴き取りや観察に比べ、情報が集めづらくなる。また、国際シンポジウムもテレビ会議での開催も検討中だが、国内からの招聘者のみの講演会などに変更せざるを得ないかもしれない。コロナ・ウィルスと難民など新たな検討課題も派生する。
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Research Products
(19 results)