2018 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアのPM2.5汚染の固有性を解明するための最先端科学知による文理融合研究
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17H02237
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三好 恵真子 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60294170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
許 衛東 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (10263344)
豊田 岐聡 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80283828)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地域研究 / 中国 / 気候変動 / 大気汚染 / 東アジア / メディア / 環境質定量化 / 生活環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、環境問題や中国地域研究の実績を有す人間環境学・経済地理学・質量分析学の研究者が専門性を超えて協働し、濃厚な現地の人脈・資源を活かしながら、最先端科学による文理融合研究(実践志向型地域研究)を展開し、これまで国際的にもなし得なかった課題解決を展望するものである。すなわち、越境汚染として最大の懸念を集めている東アジアのPM2.5汚染に着目しながら、リスクの脅威が技術的 ・経済的発展から出現するという概念だけでなく社会的行為概念と結びつけて検討していくことの重要性に立脚し、科学的先端性と学際性を融合した課題解決型の地域研究を遂行していく。 まず現地調査に関しては、中国で最も大気汚染が深刻な地域である京津冀地域並びに農村部である安徽省南部地域を対象に現地に暮らす当事者の視点に立ち、参与的調査を進めた。京津冀地域では、特に燃料転換政策の影響について検討を行った。他方で、農村社会では、改革開放以降、経済発展を主軸とした近代化政策へと転換を図る中で、養豚業は急速に産業化が推し進められてきたものの、それによる汚染も拡大している。本研究では詳細な現地調査により、近代化により環境が変容し、耕種と畜産の主体が分かれたとしても、その土地に息づく郷土性を支えにした連携が行われており、結果として地域循環と環境保全が成り立っている事例があることを明らかにできた。 大気汚染分析に関しては、北京市おける地下鉄のPM2.5汚染に関して、移動測定を行った。特に地下鉄構内の高濃度汚染について、要因分析した結果、示唆深い考察が得られた。 以上に加え、本年度は、メディアと市民との関係性にも着目し、現代の中国社会が「リスク社会」に突入したことを意識しながら、70年代から約40年間にわたる社会構造の変容を踏まえた長期的スパンにおける新聞メディア報道分析を行うことにより、中国の固有性を具体化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までは、中国広域にわたる調査を行い、大気汚染の実態を概観してきたが、今年度は、大気汚染が最も深刻である京津冀地域と農村部にある安徽省南部地域において、それぞれの地域で暮らす人びとの生活に即しながら、長期集中的に調査を重ねることにより、貴重な成果を挙げることができた。特に安徽省の事例では、汚染対策として全国的に画一的な対策が講じられ、種々の規制基準が満たされたとしても依然として問題が散見されるゆえに、中国伝統的農村社会の構造的特色である「郷土社会」からの郷土性の継承に目を向けるべきである点を導き出せたことは先行研究を乗り越える視座である。他方で、リスクコミュニケーションの観点から、個人レベルの認知と行動の基礎となる情報を伝達する「メディア」の役割が重要視されるため、今年度は、メディアの分析にも精力的に取り組み、同時にメディア研究に造詣の深い武漢大学との学術交流を促進した。こうした諸成果は、12月に行われた国際会議International Joint Conference on Information, Media and Engineering (ICIME2018)において、PM2.5を含む中国の環境問題に関する4つの報告として発表し、また査読付き論文も併せて公表することができた。また成果の一部は国内における複数の学会誌にも論文投稿中である。 さらに、研究分担者らが開発した超小型高性能質量分析装置を元に、特許出願を果たしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、越境汚染として最大の懸念を集めている東アジア(主として中国)のPM2.5の汚染を対象とし、科学的先端性と学際性(文理)を融合した課題解決型の地域研究を遂行していくものである。今後は、研究の経年的成果の蓄積を意識しつつ、各種事例分析を掘り下げて検討していくのと同時に、人々の生活の側面からの再評価を試み、具体的な改善策へとつなげていく。 地下鉄の高濃度汚染に関しては、北京市以外の複数の地域における測定を実施し、それぞれの要因分析を行い、構造的課題を抽出していく。 他方で、基礎研究と並行して「実践志向型地域研究に立脚した東アジアの環境問題改善並びに日中協働基盤の構築」というプロジェクトを掲げ、日中における大学間の研究者・学生交流等の実践面を促進していく。また本研究で扱うPM2.5汚染などの新たなリスクの数々は、これまでのリスクとは性格を異にし、その帰結の規模や深刻さが「計算不可能なリスク」であり、これらが人間の知識や技術が産み出すリスクであるとともに、「リスクか否か」の認知や同定も含め、再び人間の知識や技術に依存するといった再帰的な構造を持つリスクでもあるという特徴を持っている。したがって、市民の科学リテラシーを向上させることが、極めて有効な手段となり得るため、リスクコミュニケーションの視座から実践研究を充足させていく。
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Research Products
(38 results)