2018 Fiscal Year Annual Research Report
地中海型奴隷制度の史的展開とその変容-隷属の多様性をめぐる比較史的研究
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17H02374
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
清水 和裕 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (70274404)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 洋子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00181686)
鈴木 茂 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10162950)
貴堂 嘉之 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (70262095)
疇谷 憲洋 大分県立芸術文化短期大学, その他部局等, 教授 (80310944)
鈴木 英明 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (80626317)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 比較史 / 奴隷制度 / 隷属 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、地中海型奴隷制度の概念を中心に、そのその実態と、歴史学概念としての有効性を検証しつつ、世界史上における多様な奴隷制度・隷属制度の比較研究を行うものである。この目的に照らして、第2年度(平成30年度)においては、当初の設定に従って中世イスラーム社会、ポルトガル海洋帝国、アフリカ・インド洋海域、ブラジル、アメリカにおける奴隷制度・隷属制度について、地中海型奴隷制度論の構想に照らしてその類型的な特徴を明らかにし、他地域の比較を進めた。特に、本年度は近代における各地の奴隷制度が、地中海型奴隷制度との接触の中でいかに変容・発展し、また消失していくかに焦点をあて、前近代のあり方と比較しつつ検討を行った。 これらの一環として、平成30年11月には史学会大会における公開シンポジウム「「奴隷」と隷属のの世界史」を、本科研プロジェクトを中心として開催した。この進歩し有無においては、研究代表清水が地中海型奴隷制度論を提唱する問題提起を行い、研究分担者である鈴木英明、貴堂嘉之が報告を、松井洋子、鈴木茂がコメントを行った。この場においては、特に近代における多様な奴隷制度の展開を、地中海型奴隷制度の概念を導入しつつ検討し、広く意見交換を行って、本プロジェクトの方向性の検証を行った。 さらに平成30年12月から翌1月にかけて、ガーナ共和国、セネガル共和国、ガンビア共和国を歴訪するアフリカ西海岸国際調査を実施した。これによって、主に近代におけるアフリカ系奴隷の出荷拠点を連続的に調査し、その実態を検討した。これらの研究によって本課題研究においては、研究者間において奴隷制と隷属に関わる問題意識を共有し、その論点の整理を行うなど、国際的な奴隷・隷属民研究をすすめ、その成果は、国内外の学術雑誌その他に論文および著作として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2年度として、昨年度の研究をもとに研究の深化をはかり、順当にその成果を研究報告や著作などとして発表した。特に、平成30年11月24日(土)には史学会大会における公開シンポジウム「「奴隷」と隷属のの世界史」において中心的な役割を果たし、地中海型奴隷制度の概念を、正式に歴史学界において提唱した。プロジェクト外のメンバーとしては、趣旨説明として弘末雅士(東洋文庫研究員)、報告者として斎藤照子(東京大学)を迎え、清水による地中海型奴隷制度論の提唱ののち、近代のビルマ、アフリカ東海岸、そして北アメリカにおける奴隷制度の展開を、各地域の隷属の変容に関する実証研究や研究史の再検討を通して報告し、新たな奴隷制度論・隷属論の展開を図った。討論においても、地中海型奴隷制度論を中心に積極的な意見交換がなされ、本プロジェクトの意義を確認する結果となった。 一方で平成30年12月から翌1月にかけて行ったアフリカ西海岸海外調査においては、ガーナにおける奴隷輸出拠点の実際のあり方を、その地形、地理的環境、当時の政治的環境などを含めて検討し、本研究の推進に大きく寄与したが、それと同時に、セネガル、ガンビアにおける「奴隷輸出拠点として知られる拠点」が、現在の歴史遺産をめぐるツーリズムに組み込まれる有様を観察した。後者においては、奴隷輸出拠点としての歴史的真実性や評価とは無関係に、「負の遺産としての奴隷制度」が独自の展開みせつつ経済効果を生んでいる状況が明確であり、本研究課題に新たな研究方向を付加する必要性が生まれた 以上のように、第2年度においては、日本歴史学界における主要なシンポジウムの開催に加え、海外調査によって新たな研究の方向性を見いだすなど、十分な研究の進展がみられ、順調に進んでいると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成31年度/令和元年度においては、例年通り3度の研究会を開催し、そのうち一度は、国際ワークショップとして本プロジェクトの現在までの成果・結論を国際的に発信する。また12月の九州史学会においてシンポジウムを開催し、3年間の成果をまとめ、成果刊行物へとつなげる。成果刊行物としては、このほか個々の論文・著作に加え、前年度史学会シンポジウムの成果をとりまとめて『史学雑誌』などに発表することも検討している。 ここまでの本研究成果を下敷きにして、地中海型奴隷制度論と近代における多様な隷属の変容・消失という問題意識をさらに深化させるため、研究会において、より広範な地域・時代の研究者を招いて討論を重ね、今回の研究をとりまとめるとともに、さらに拡大した新規プロジェクトへとのつなげるための準備をすすめる。 さらに前年度の海外共同調査の成果として浮上した、「負の遺産としての奴隷制度の資源化と現代」という問題を、どのように展開するかの検討を始める。これは、問題設定自体が、本科研の成果として新たに発見されたものであり、これを今後の研究としていかに展開するかの議論を進める予定である。
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Research Products
(17 results)