2018 Fiscal Year Annual Research Report
日本中世貨幣史の再構築―学際的な中世貨幣学の確立に向けて
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17H02389
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中島 圭一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (50251476)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本多 博之 広島大学, 文学研究科, 教授 (30268669)
伊藤 啓介 総合地球環境学研究所, 研究部, 研究員 (10733933)
高木 久史 安田女子大学, 文学部, 准教授 (50510252)
川戸 貴史 千葉経済大学, 経済学部, 准教授 (20456289)
石神 裕之 京都造形芸術大学, 芸術学部, 准教授 (10458929)
橋本 雄 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50416559)
中島 楽章 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (10332850)
三宅 俊彦 淑徳大学, 人文学部, 教授 (90424324)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 貨幣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は「中世貨幣の解体と近世貨幣の成立過程」を本年度の重点研究課題と位置付け、共同作業としては4月の日仏共同国内調査、6月の第4回研究会・現地調査(大阪、研究会は貨幣史研究会の主催)、10月の第5回研究会・現地調査(島根、他2科研と共催)、3月の海外調査、第6回現地調査(三重)を実施した。 各回の研究会における報告は次の通りである。第4回(関西大学):高木久史『近世の開幕と貨幣統合 三貨制度への道程』ならびに川戸貴史『中近世日本の貨幣流通秩序』の合評。第5回(石見銀山世界遺産センター):「南シナ海沈船発見の前近代貨幣と関連問題」(李慶新=ゲストスピーカー・広東省社会科学院歴史研究所)/「サルファーからシルバーへの転換」(鹿毛敏夫=ゲストスピーカー・名古屋学院大学)/「16世紀銀の流通と社会浸透」(本多博之)。第6回は神宮文庫等における史料調査を優先して、研究会は省略したが、第4回で研究分担者による新著の合評会を通じて本年度の重点課題に関する論点を整理した上で、第5回で銀の流通開始の周辺に焦点を当てて共通理解を深めた。 また、第4回研究会に際しては堺市立埋蔵文化財センター(堺市文化財調査事務所)で16世紀の私鋳銭生産関連遺物を調査した上でその出土地を実地に歩き、第5回には益田市所在の貨幣流通関係史料を閲覧するとともに、石見銀山とその関連遺跡を踏査した。第6回は神宮文庫を中心に、伊勢神宮門前ならびに周辺港町における地域的な貨幣流通の実態や紙幣の成立に関わる史料を閲覧調査し、あわせてそれらの史料が物語る経済活動の舞台となった山田・宇治・河崎などの中世都市の跡を調査した。 日欧共同の比較調査は、日本の関東北部・東北地方とフランス・ベルギーのフランドル地方を中心に、都市・城館・港湾遺跡を踏査し、出土遺物の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の重点課題とした「中世貨幣の解体と近世貨幣の成立過程」については、既往の研究の到達点を再確認した上で、銀の流通について議論を深めることができたが、第6回の伊勢における研究会開催が中止となり、地域的な貨幣流通の問題を討論することができなかったのがマイナス点である。ただし、その伊勢における史料調査で、中世の為替手形が近世の私札・藩札へと継承されていく諸段階を実証的に確認し、さらに中近世移行期の伊勢の貨幣流通を特徴づける金の使用が遠隔地の参詣客を多く受け入れた当該地域の宗教/社会的特質を背景とするとの見通しを得たのは、先のマイナス点を補って余りある極めて大きな成果であり、研究会よりも史料調査を優先させた判断も誤りではなかったと考える。 日欧比較に関しては、日本における共同調査のほか、当初計画では次年度に予定していた2回目の海外調査を本年度中に実施することができ、しかもフランスだけでなくベルギーをフィールドに加えることで立体的な比較検討が進み、その意味においてむしろ当初計画以上に進展していると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では「中世貨幣の流通実態」「貨幣流通に関する東アジアと日本との相互影響関係」を2019年度の重点課題とする予定であったが、前者のテーマに本格的に取り組むには、第6回に研究会を開催できなかった本年度の成果の整理が不十分であり、またそもそも最終年度の総括に相応しいテーマでもある。他方、本年度の第5回研究会の李慶新報告は後者のテーマに直結する内容で、取り組むべき課題も明確に浮かび上がってきたので、2019年度はまず「貨幣流通に関する東アジアと日本との相互影響関係」に重点を置いて共同研究を進めていく。 また、本年度に見出した貨幣史研究のフィールドとしての重要性に鑑み、伊勢地域の史料の掘り起こしと分析にも力点を置く。 日欧比較に関しては、予定より早く作業が進んでいることから、最終年度に予定していた日本における共同調査を前倒しして2019年度に実施することとする。
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