2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Vicissitudes of Concepts of "Right Congition" in Medieval and Early Modern Europe
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17H02406
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (90456492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田口 正樹 北海道大学, 法学研究科, 教授 (20206931)
三浦 清美 電気通信大学, 情報理工学域, 教授 (20272750)
鈴木 道也 東洋大学, 文学部, 教授 (50292636)
石黒 盛久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50311030)
長谷川 まゆ帆 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60192697)
小山 哲 京都大学, 文学研究科, 教授 (80215425)
坂本 邦暢 東洋大学, 文学部, 助教 (80778530)
甚野 尚志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90162825)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 西欧合理主義の宗教性 / 脱「脱魔術化」 / 宗派的「現実政策」 / 対話的理性 / 反三位一体説(ユニテリアン) / ソッツィーニ派 / 旧約と新約 / ホッブズ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は研究参加者の役割を確認した後、研究会を年2回とすることを申し合わせ、平成29年7月30日に早稲田大学で初の研究会を開催した。ここでは趣旨説明と焦点確認を兼ねて研究代表者の皆川が、神聖ローマ皇帝レオポルト1世の外交に関する事例分析を報告した。この事例は、従前の宗派中心の政治が現実政策に旋回したことに特徴があるが、本報告では、旧説の如く宗派の相対化が生じたのではなく、宗派自体の「正しい認識」が、教条から「神の御業」の証としての経験的現実に移行した、という見通しを立てた。この報告に対し、紛争ではキリスト教の影響が相対化されるという指摘がある一方、ウェーバーの「脱魔術化」に依存しすぎであり、それ自体を批判的に捉え、西洋的特徴である対話的理性との関係を解明すべきであるとの指摘がなされ、研究参加者間での検討の結果、平成30年3月29日に分担研究者の坂本が、宗教改革からホッブズの社会契約出現の間に生起した反三位一体説に関する報告を行った。ここではポーランドの宗派マイノリティ「ソッツィーニ派」に生じた反三位一体説が、自然哲学者の間で自然の本質を巡る論争を引き起こした結果、ホッブズに至って精霊を物体とし、神が遍在し得ないことを論証して、神と世界を切り離し、世俗化された世界の観念を生み出したと結論づけた。これに対し、その後もなお宗教性が再生産される経緯に鑑みて、西欧的思考の宗教性に位置づけ直す必要が指摘され、さらに神学論争から西欧合理主義への過程には、新約聖書への偏重という神学的要素が、「神の本質」論を巡る古代キリスト教への回帰を生み、それが理性の経験主義化を導く面が指摘された。以上の報告と検討により、西洋合理主義の誕生とされる17世紀の「正しい認識」の変化は、過度に質的に捉えられるべきではなく、むしろ同じ宗教性の中の視角の変化として把握される必要があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では当該テーマ、特に「正しい認識力」について、単に思想と政治を直結して自他意識を析出するスタイルを構想していたが、実際に検討を開始すると、「正しい認識」の「西洋的」図柄にキリスト教(カトリック、東方・ロシア正教会、プロテスタント諸派)における「神の本質」論が根深く関わっていることが判明し、それぞれの政治秩序における「正しい認識力」の反映を構造的に把握するまでには、かなりの検討が必要であることが判明した。メンバーの多忙さや申請予算の削減による研究会回数の制約も不安材料である。しかしメンバー全員が従前より共通の問題意識を有しており、かつそれぞれの研究分野について、史料をどう扱い、どうその時代に位置づけるべきかについて熟達した知見を持っていることから、合理的で無駄のない検討と分析が可能でること、また共通のテーマを有しながらも研究会を演繹的ではなく帰納的に展開し、問題発見の場としたことによって、構造的要因を巨視的な観点で把握することが可能となっている。その結果、西洋的合理主義を到達点とする目的合理主義から当該テーマを解放することに成功し、それが生起するとされる17世紀には、むしろキリスト教のテーマやロジックの一部として徐々にその論点を変えながら、政治的エリートを含むそれぞれの宗派の影響圏に流通していたことが特定できた。この変化が質の転換ではなく、視点の変化によるものである可能性に到達したのは、「国家理性」や「科学革命」を図式的に政治に当てはめて来た従来の国制史や政治史では克服できなかった点であり、大きな成果である。ただし研究会活動の制約のため、主報告はいずれも17世紀の中欧~西欧に限定され、政治における「正しい認識」観念の変容をヨーロッパ全体で総合的に捉えるにはなお不足であり、神学・哲学論議と政治エリートの活動の接点について、時代・地域をより広げた比較研究が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
時代を16-17世紀に、地域を東中欧・中欧・西欧に限定して情報交換と検討を行った現時点で、すでに第一仮説を立てることができたため、分析対象を初年度の17世紀中欧から、中近世全体の西欧や地中海世界、ロシアに広げ、研究分担者の専門的知見から、この第一仮説がどの程度の普遍性を持つかを再検討する。これによって本テーマの解明目標である、政治におけるヨーロッパ的な「正しい認識」と、キリスト教を中心とする思想・習俗の関係構造について、特殊歴史的・地域的な特殊条件を超えた検討材料を得ることが可能となり、文明史的な視点から、「正しい認識」を巡る政治文化の可能性を歴史学的に論ずることができる。この研究プロセスを国際的な側面から支援する活動として、平成30年度末には、ザルツブルク大学のアルノ・シュトローマイアー教授を招聘して研究会を開催し、17世紀のハプスブルク・オスマン関係を題材に、「異教徒」との交渉における「正しい認識」(特にキリスト教と外交的プラグマティズムの関係)について報告してもらい、併せて講演会を開催して、「正しい認識」におけるキリスト教思想・習俗の影響の射程を国際的な視点から確認、再検討する。この機会は、同時に本科研研究の進捗状況を学界に広く報告するためにも重要である。なお平成29年度の研究会の中では、キリスト教の他に他者との関係上の「正しい認識」の基準として、ローマ法の果たした役割が指摘された。しかしこの問題については、未だ担当の分担研究者が研究中であり、報告の機会が得られていないため、平成30年度後半から平成31年度の課題とする。
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Research Products
(16 results)