2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H02509
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
縄田 和満 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00218067)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 良太 一橋大学, 社会科学高等研究院, 准教授 (00717209)
関沢 洋一 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 上席研究員 (60444098)
松本 章邦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80579714)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 経済統計学 / 計量経済学 / 医療データ / 大規模個票データ / 医療経済学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国は人口の高齢化や医療の高度化に伴い医療費が増大しており、医療資源の有効利用による医療費の抑制が緊急の課題となっている。我が国では40歳以上の労働者は原則年一度の健康診断の受診を義務付けられており、数千万といったこれまでに分析されたデータとは比較にならない大きさの長期間に渡るデータがすでに存在する。健康保険組合には各医療機関からレセプトが毎月送られてきており、診療行為、診療費、薬剤費等の支払いに関するデータを保有している。現在の自由診療制度のもとでは、患者は自由に病院を選ぶことが出来るので、病院はその患者が他の病院で受けた治療内容を知ることは出来ない。「おくすり手帳」等の制度はあるものの、あまり利用されていない上、すべての医療行為をカバーしているわけではない。つまり、健康保険組合はその組合員の健康状態と医療・診療行為の両者のデータを保有している唯一の機関であることになる。しかしながら、これまで健康保険組合のデータは有効利用されておらず、法定保存期間の5年を過ぎると多くの組合で破棄されてきたのが、実情である。今年度は、交渉の結果、3つの健康保険組合から健康診断およびレセプトのデータを入手し、延べ17万人分以上に渡るデータベースを作成した。個人情報保護のため、データの匿名化は各健康保険組合においておこなった。それに基づき、代表的な生活習慣病である高血圧、および糖尿病に与える要因の分析を行った。さらに、医療費のうち非常に大きな割合を占める腎不全・人工透析に与える要因の分析研究を行った。腎不全・人工透析を既存症として有する例は0.25%に過ぎないが、レセプトからの解析からは3.5%の医療費(歯科・介護を除く)を使っていることを見出した。さらに、腎不全・人工透析に与える要因の分析を行った。これらは、合計6本の論文として発表されており、さらに数本の論文を執筆中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、3健康組合から健康診断およびレセプトデータの提供を受けることができ、約17万5,000件におよぶ健康診断の結果とレセプトを統合したデータベースを作成することが出来た。不健康な生活習慣を繰り返すことにより、肥満・高血糖・高血圧・高コレステロール状態を招き、肥満症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症(高脂血症)といった生活習慣病に繋がる。生活習慣病に関する分析をおこない、これらの病気が重症化・合併化することにより、さらに重い疾患につながる確率が高くなることを昨年度までの研究によって見出した。この重症・合併ステージになると、こうした疾患リスクを下げることは困難になり、慢性的に病院で治療を受けることになるが、(生活習慣病における医療費の増加はそれほと大きなものではないのに比較して)ここでの医療費が非常に高くついてしまうこととなる。一人当たり医療費の分布は、右側の裾の厚い偏った分布となっている。年度ごとにみると19%の対象者が医療費を使っていない。一方、1.7%が10万点以上の医療費を使っており、全体の30%の医療費を使っていることになり、医療費の使用においては大きな不均一性があることが分かる。個別の傷病についてみると、腎不全・人工透析の患者は全体の0.23%に過ぎないのに医療費総額の3.5%、すなわち、平均の15倍の医療費を使っている。特に50万点以上医療費を使った患者のうち、腎不全・人工透析の患者は35%を占めており、その予防の重要性が強く示唆される。また、これらの疾病は生活機能の低下や慢性的な通院は患者の労働生産性やその生活の質(quality of Life, QOL)を大きく下げることQOLを大きく下げる要因となっており、間接的なこれらを含めるとその費用はさらに大きくなる。これまでは、これらに関する分析を、ほぼ、予定通り行ってきている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度までの研究に加え、より多くの健康保険組合からデータを得ることによるデータベースの拡充を試みる。また、健康診断データとレセプトデータの突合が現状では医療費の総額のみになっているが、より細かい分析(例えば傷病ごと)が可能になるようにデータベースの改良およびデータ分類のためのプログラムの開発を行い、分析対象とするデータを容易に抽出できるようにする。 同時にデータ分析手法の開発を行う。これまで主に行われてきたコーホート研究では、要因数が多い場合各コーホートの人数が少なくなってしまうという問題が存在する。特に、医療データは右に裾の長い分布になっている、医療費ゼロの多くのデータを含む、病気と判断されるかどうかが質的データになっているなどの特徴がある。これらに対応するために昨年度はべき乗変換トービットモデル(power transformation tobit model)やプロビットモデル(probit model)などを用いたが、今後はモデルの当てはまりの良さに関する研究やや新規分析手法の開発を行う。 それらに基づき、健康診断項目と医療費の関係の分析を行い、どの項目が(対象者の健康状況を表していると考えられる)医療費の増加に影響しているかを対象範囲(昨年度は主に高血圧と糖尿病について分析を実施)を広げて分析を行う。これらにより、危険因子を待つ対象者の特定が可能となり、その対象者に対して集中的に健康指導・早期治療を行うことにより、医療資源の効率的な利用・医療費の抑制が可能となる。さらに、どのような治療を行ったかのデータを入手出来るため、(これまで行われて来たランダム化比較試験とまったく異なった方法による)各種傷病の治療法の評価のための研究を行う。
|
Research Products
(10 results)