2017 Fiscal Year Annual Research Report
戦前・戦後の連続と断絶の視点から見た沖縄の「子ども」をめぐる教育・文化実践史研究
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17H02667
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
斎木 喜美子 福山市立大学, 教育学部, 教授 (30387633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
泉水 英計 神奈川大学, 経営学部, 教授 (20409973)
喜久山 悟 熊本大学, 教育学部, 教授 (50273876)
近藤 健一郎 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (80291582)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 沖縄 / 戦前 / 戦後 / 子ども / 教育史 / 文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,沖縄の近代化がほぼ完成し,新思想の影響を受けた教育論や芸術論が定着する1930年代から,地上戦を経て米軍の占領下におかれた1972年までの変革期とも言うべき時期を研究対象期間とし,以下の3点を研究目的として設定した。 ①沖縄の「子ども」の教育・文化の展開過程と課題を近代日本,および戦後米国の文教政策の研究史を背景に明らかにする。②戦前~戦後の教育者や文化人たちの著作や実践記録等の史料分析から,実践の実相や実践者の思想,「子ども」観を分析し,彼らが子どもの未来に何を構想し,その実践がどのような意味を持っていたのかを明らかにする。③①と②を包括し,戦前から戦後をつなぐ沖縄の「子ども」の教育・文化実践史解明を目指す。研究の初年度は研究準備期と位置付け,各研究メンバーがそれぞれの課題に基づいて調査と史料収集を実施した。具体的な研究内容と成果は以下の通りである。 まず初めに,戦前から戦後にかけての沖縄における教育実践史解明の基礎作業として当該時期に発行されていた新聞、沖縄の学校記念誌(創立百周年記念誌等)等の史料調査を行い,沖縄出身者が多く移民した旧南洋群島で刊行されていた戦前の雑誌などを閲覧した。次に沖縄と同様に日本統治から米軍軍政、高等弁務官管轄地区へと進んだミクロネシアの文教政策と比較するため,北マリアナ大学ミクロネシアアーカイブ,北マリアナ議会図書館,グアム大学ミクロネシア地域調査センター,ハワイ大学ハミルトン図書館等で,民間人収容所での児童教育や,旧南洋群島における学校復興および教員再教育について調査した。また,東京藝術大学図書館、アジア太平洋資料室,久保貞次郎記念館等で,戦中の芸術家の動向や絵本の仕事について調査し,戦後沖縄の絵本作家・版画家の儀間比呂志についてはライフヒストリー研究と作品調査,聞き取り等を行い,論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究着手の年であるため「研究準備期」と位置付け,沖縄関係史料の収集,国内外に散逸している情報の収集と整理・蓄積を集中的に行い,年3回の研究会を開催して情報共有を図った。各自が研究関心に基づき調査を進めることができたことは評価できる。また,具体的な研究進捗状況は以下の通りである。 研究開始当初,戦中から戦後の沖縄教育・文化状況については,近代日本および戦後米国の文教政策の研究史を背景に先行研究に当たり考察を進めていく予定であった。しかし調査と研究を進めるうちに,沖縄の戦後教育課程や教科書編纂には,沖縄同様に米海軍軍政下におかれたミクロネシアの教育改革の影響があるのではないかとの仮説が浮上してきた。また,戦前にミクロネシアに移民として渡った人々の文化資産が,戦後の教育や文化に及ぼした影響も見過ごせないことも示唆された。 そこで,本研究メンバーが当時ミクロネシアで使用されていた教科書や戦中に南洋群島で発行されていた教育機関誌の調査を行い,史料発掘に努めた。こうした史料の分析や考察は今年度以降の課題となるが,これまで手薄だった戦前の国定教科書の沖縄記述と南洋群島教科書の比較研究,戦後南洋群島からの引き揚げ者のライフヒストリー研究など,研究視点の多角化と深化が見られた。 その一方,当初初年度に予定されていた研究計画のうち定期的研究会の開催と情報共有は実現できたものの,戦後沖縄の海軍軍政史料,教科書調査,沖縄島嶼部の教育実践調査などは次年度集中的に行うこととなった。 以上を総合的に判断し,この評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,前述した研究目的を達成するため異領域の専門性を持つ複数の研究者の協同によって課題を掘り下げ,より深い解釈を導き出そうとしており,今年度は各自が以下の研究計画に基づいて研究を遂行する予定である。 ①昨年度に引き続き,戦前の沖縄あるいは日本統治下の台湾や南洋群島で教育実践や文化活動に関わっていた教育者,文化人の言説や作品等を調査し,彼らの活動が戦後沖縄の教育や文化にどう引き継がれたのかを明らかにする。 ②沖縄軍政府民事将校だったJ・ワトキンスの個人文書を集成した『沖縄戦後初期占領資料』(緑林堂)をはじめ,国立国会図書館憲政資料室所蔵の米陸軍文書,USCAR文書などから,戦後に米軍の影響下ですすめられた文教政策を精査し、沖縄と同様に日本統治から米軍軍政、高等弁務官管轄地区へと進んだミクロネシアの文教政策と比較することで、立体的にその特徴を把握する。 ③1952年に発行された仲原善忠の『琉球の歴史』(琉球文教図書)の成立に関する調査,教育行政を所管する文教局の史料『文教時報』,沖縄教職員会の『沖縄教育』を手がかりに戦前から戦後の教育実践の実態と課題を考察する。 以上の調査はそれぞれの研究メンバーの研究関心に応じて実施するが,課題によっては協同で調査・史料収集を行う予定である。また,収集した史料を情報共有し,年度内に2回程度の研究報告会を行うとともに,各研究メンバーが所属学会や研究会等で研究成果の情報発信を行う。
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Research Products
(2 results)