2017 Fiscal Year Annual Research Report
軟X線内殻励起の化学シフトの顕微観測と化学的環境解析
Project/Area Number |
17H03013
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
小杉 信博 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (20153546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大東 琢治 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 助教 (50375169)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 量子ビーム / 内殻励起 / X線顕微分光 / その場観測 / マイクロ流路 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、以下の2つの側面から研究を進めた。 (1)軟X線吸収マイクロ流路試料セルの開発 本研究の前に使っていたマイクロ流路試料セルでは薄膜の窓と樹脂基板の間から液体が漏れる問題があり、窒化ケイ素薄膜の押さえつけ方や流路サイズの検討を行い、問題を解決した。その結果、幅50ミクロン、深さ50ミクロンのT型及びY型のマイクロ流路を作成したPDMS樹脂において液体漏れがない条件で、2ミリ x 2ミリの窓の大きさの範囲にある流路から軟X線吸収の後続過程である軟X線発光(蛍光)が観測できるようになった。流路長としても位置に依存した反応変化が十分観測できるサイズとなっている。ただし、軟X線ビーム径を10ミクロンまで絞ろうとしたが、まだ、成功しておらず、30ミクロンでの観測となった。流速によって層流か混合流かが決まるが、ピリジンと水の2液で調べたところ、層流状態と混合状態で窒素内殻励起のエネルギーに差が観測できたので、計画した目的は達成することができた。 (2)理論解析手法の確立 メタノール、アセトニトリル、ベンゼン、ピリジンの水溶液の濃度変化による有機分子間の相互作用、有機分子と水との相互作用の変化を分子動力学シミュレーションで調べるとともに、スナップショットから観測できた複数の配向の可能性(例えば、平面分子だと平行、垂直、傾き、ズレなどで複数の可能性がある)に対し内殻励起の量子化学計算を行い、実験の内殻励起エネルギー変化(化学シフト)を再現する配向と距離を決定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、ミクロンスケールの軟X線顕微鏡での実験により、観測位置による内殻励起の化学シフトが観測できたので、原理的な検証はできたと考えている。ただし、50ミクロン幅の流路を約2ミリの長さで軟X線吸収を観測しているが、軟X線は30ミクロンビームを使っているので、イメージング像としてはかなり粗い観測になっている。一方、理論的なアプローチはほぼ、手順が固まってきたので、順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、マイクロ流路での化学シフトのイメージングの空間分解能を上げて、より詳細な相互作用の位置変化を観測できるようにするための条件出しを行う必要がある。また、マイクロ流路に拘らなければ30ナノの分解能での軟X線透過顕微鏡が使えるので、相分離などの相転移現象が起きる前後でのメゾスコッピクスケールでの化学シフトイメージングの可能性を探る。モデル系での検証は済んだので、次は実在系として、国際共同で進めている経皮薬物伝達の化学シフト観察から薬物分子と皮膚成分の相互作用の変化(伝達する深さに依存した変化が期待できる)を観測できるかどうかを検証する。
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