2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study on Disaster Prevention and Restoration after Disasters of Historical Buildings
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17H03373
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Research Institution | Tokyo Kasei Gakuin University |
Principal Investigator |
大橋 竜太 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (40272364)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 治 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 教授 (50317343)
永井 康雄 山形大学, 工学部, 教授 (30207972)
太記 祐一 福岡大学, 工学部, 教授 (10320277)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歴史的建造物 / 保存 / 防災 / 災害復旧 / 地震 / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、近年のたび重なる地震によって歴史的都市が被害を受けたイタリアにおける災害復興の状況について実地調査を行い、歴史的建造物の修復の実態を明らかにした。具体的には、ラクイラとフェラーラの復興に関して、復旧現場を視察しながら、関係者に聞き取り調査を実施した。また、歴史的建造物の保存に関わる専門家に対し、耐震補強の原則、最新の防災対策、文化財データベース等について、聞き取り調査を実施することによって情報を収集した。 イタリアでは、歴史的建造物に対して構造補強等の安全対策を実施する際、「ミリオラメント(Miglioramento)」という概念を導入している。これは、現状よりも安全性能を向上させることが重要であるという意味である。もちろん、十分な安全対策が必要であることには間違いがないが、それを実施するための予算が用意できない場合や、応急措置の場合には、有効な手法である。歴史的建造物が多数存在するイタリアにとっては、現実的な対応と考えることができる。同様の考え方の導入は、わが国でも検討の余地があると考えられる。 現代的な基準による安全性の確保が必要なことは理解しているが、予算等の問題で、すべての歴史的建造物に対しては十分に対応できていない点に関しては、他のヨーロッパ諸国でも問題視されている。同じく地震国で、今年度、聞き取り調査を実施したポルトガルのリスボンでは、EUの結成後、建築の安全基準はEU諸国のスタンダードが適用されるようになったが、スタンダードの基準はあまりにも高く設定されているため、既存建築の性能を厳守することは困難なため、安全性の確保に関する工事は、やりたくともできないとの問題点を耳にした。この問題を解決するためにも、イタリアの「ミリオラメント」の概念の導入は有効であろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、イタリアを例として取り上げ、耐震対策に関して検討を加えた。ヨーロッパ諸国では、歴史的建造物の保存に関して長い歴史があり、さまざまな点で経験を活かした対策がとられているが、ヨーロッパでは地震が少なく、地方的な対応とみなされることも多く、その実態に関しては、これまでわが国にはあまり紹介されてこなかった。しかし、本研究によって、求められる安全対策と必要となる費用の不足といった問題点に関して、経験的に「ミリオラメント」の概念が発生し、それが有効であることが明らかとなった。この点は、わが国でも問題となっている点であり、本研究の目的である、新たな手法の提案につながる概念を発見することができた。これに関して、建築保存の専門家が集まる日本建築学会の文化遺産災害対策小委員会と歴史的建造物保存制度WGの合同委員会で発表するとともに、その内容を報告書としてまとめた。これらは、関係者から高い関心を集めており、研究の目的を順調に果たされていると考えることができる。 一方で、日本での災害後の対応に関する研究に関しては、当初計画していた手法を忠実に進めることはできず、論文として成果を発表することはできなかったが、共同研究者の永井康雄が東日本大震災以降取り組んできた復興事業のひとつである「くりでんミュージアム(被災から保存再生、活用へ)」が、2018年度日本建築学会東北支部東北建築賞特別賞を受賞することが決定し、また、旧大條家茶室の復興と活用に関する活動は、2017.02.07ならびに2017.08.05の河北新報、2017.12.15の東日本放送「夕方LIVEキニナル」で「震災茶室復興へ」と題され放映されるなど、社会的な関心も集めており、これらの活動は本研究の目的を順調に進展させるものと考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
文化財や歴史的建造物の防災に対する関心は、世界的に高まっており、各国で喫緊に取り組むテーマとして認識されている。本研究の意義は高く、今後、継続して進めていくべきテーマであると確信できる。一方で、歴史的建造物が被害を受ける災害は多岐にわたっており、文化財防災に対する取り組みがさかんになるにつれ、さまざまな種類の災害に対する対応が検討されるようになった。特に、わが国で近年、水害が大きな問題となっており、わが国においても水害に対する歴史的建造物の安全性確保に対する対応の確立が求められる。水害に関しては、ヨーロッパやアメリカ、アジア諸国で大きな被害が発生し、問題となっているが、歴史的都市が被害を受け、歴史的建造物に対する対応に取り組んでいると思われるヨーロッパ諸国の事情を、まずは調査する必要があると思われる。平成30年度は、当初、ニュージーランドの地震後の復興に関して現地調査を行う予定であったが、まだ、復旧の途中であり、もう少し遅い時期に調査したほうがよいと考え、水害に対する対策や復旧について調査を実施するつもりである。 災害対策においては、より現実的な対応が求められている。水害のように、これまではあまり問題視されていなかった災害が頻発するなど、自然環境の変化とともに、これら新たに問題視されるようになってきた。そのため、災害を地震や火災という限られた分野に限定せず、今後は、水害、火災、地震、土砂災害、等をも対象として検討していく予定である。また、当初の計画通り、これら災害に対して、法律、補助制度などさまざまな制度、住民の対応等に関して、関係者への聞き取り調査等によって、明らかにしていく。
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Research Products
(11 results)